庭探索1/2
朝食後、私はシエルに呼び出された。
「頭は大丈夫なのか?」
「……そんな言い方やめて下さい。なんか私が馬鹿みたいに聞こえます」
それは悪かった、と気持ちのこもってない謝罪を彼は口にする。
「そんな事より、シエルさんの怪我はまだ酷そうですね」
整った白い顔には痛々しい痣が幾つもあった。
「せっかくの美人さんなのに」
「これくらい大したことはない」
流石というか、何というか…
腕を組んで不敵に笑う彼には拍手したくなる。
「今日から本格的に仕事をしてもらうが、先ずはこいつについて一通り仕事を見るといい。セバスチャン、リユに指導してやれ」
「御意」
シエルの言葉にセバスチャンが頭を下げた。
「何でフィニの補佐じゃないんですか?」
園芸出来るって最初に言ったのに。
庭を歩く彼の背を追いながら、疑問を口にした。
「坊ちゃんは先ず、貴女に此処での生活に慣れて欲しいのですよ。お優しい方、ですからね」
優しい。の部分がいやに強調された気がする。
「で、セバスチャンさんはどこに向かってるんですか?」
「薔薇の手入れをしに行くんですよ」
もしかしてそれってシエルの白薔薇!?
暫く歩くと、想像以上に綺麗な光景が目の前に広がった。
うわー、生で見れるとか感動。
「綺麗、ですね…」
ぼーっと眺める私にクスリと笑いながら、彼はハサミを取り出した。
枯れた花を切り落としたり、部屋に飾る薔薇を選んでいく。
なんというか…
その動作のひとつひとつが、繊細で優雅。
「見惚れます」
「何にです?」
「薔薇とセバスチャンさんの構図に」
「の、割には私から離れてますよね?」
セバスチャンはこちらを振り返って微笑を浮かべる。
「先程から、きっちり3メートルは距離があるような気がするのですが…」
「き、気のせいだと思います」
思い出すのは、2日前彼に言われたあの言葉。
(次は唇をいただきますから)
絶対に隙は見せない!
と、私は意気込んでいた。
「それより早く仕事しないとっ!」
慌てて話題を変えると、彼は嗚呼、と呟いた。
「そういえば坊ちゃんに、リユに屋敷の庭を案内するよう言われていたんでした」
「案内?」
「ええ。使用人が庭で迷うなんて困りますからね」
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