庭探索2/2
「此処から先は狩猟用の森ですから、勝手に迷い込まないで下さいね」
「はい」
返事をしながらも、敷地内に森があるという事実に驚いていた。
あちこちを簡単に見て回ったが、実際はもっと広いらしい。
「では、そろそろ戻りましょうか。薔薇を花瓶に生けなければなりませんし」
屋敷に向かって歩き始めた彼の後ろについて行く。
勿論、一定の距離を保ったまま。
セバスチャンはちらりと私を振り返ったが、特に何も言わずそのまま歩いていった。
「あ、」
目に入った意外なものに思わず声を上げる。
「どうしました?」
「あれって橋ですよね?」
指を指す方向には、小さな川とそこに架かっている小さな橋。
すごく可愛いんですけど!
流石、貴族のおうち。
細かいとこまで凝ってるなぁ。
「見てきて良いですよ」
余程顔を輝かせていたのか、セバスチャンが穏やかに言った。
「この川って魚いますー?」
独り言のように呟いて、橋から身を乗り出し下を覗き込む。
「昨日の雨で滑りやすいですから、落ちないよう気を付け…」
「あ…っ!?」
彼が言い終わらないうちに、私は頭から川へ滑り落ちそうになった。
「リユ…!!」
とっさに後ろから駆け寄ってきたセバスチャンに手を取られた、と思ったが、一瞬遅かった。
共にバランスを崩した彼は、私と一緒に水の中へ真っ逆さま。
ていうか私、頭打つじゃん!
ぎゅっと目を瞑ったのと派手な水しぶきが上がったのはほぼ同時だった。
「う…っ」
ずぶ濡れの体をゆっくり起こす。
あれ、頭打ってない?
というか私…
「大丈夫ですかリユ?」
「セバスチャンさん…」
私と同じく、ずぶ濡れの彼。
その上に私は乗っかっていた。
「うわぁあぁっ!すみませんっ!」
「嗚呼、服が水浸しですね…」
セバスチャンは上体を起こして、濡れた前髪をかきあげる。
辺りには、彼が持っていた白薔薇の花びらが浮いていた。
「全く、言ってるそばから落ちる人がありますか」
幾ら何でもあれは驚きます、と溜息混じりにこちらを見る。
そんな彼の、艶やかな黒髪から流れる水滴が。
何とも言えない優美さを醸し出していて。
「リユ?」
不思議そうに私の名を呼ぶ彼に一言。
「水も滴る良い男、ですね」
薔薇の花びらが、余計に雰囲気を作っていた。
(くだらないことを言う暇があったら早く退いて下さい)(え?ああ!)(貴女も随分積極的ですねぇ)(ち、違いますっ!)
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