その姫、救出1/3
小さくても流石はデスサイズ、と言うべきか。
私が投げた鋏の刃はエリザベスと繋がる操り糸を切り離した。
彼女がパタリと倒れる事を知っていた私は、エリザベスが倒れる前にその身体を支える。
けれどドレスの重さを舐めていた。
重…っ!
リジーちゃんの体重プラス冬のドレスの重みには勝てず、彼女を支えたまま私は床へと座り込んだ。
「…エリザベスっ」
心配そうに屈み込むシエル。
セバスチャンは切り離された糸を摘んで言った。
「操り糸です」
私は僅かに揺れている気丈な碧の瞳を覗き込んだ。
「大丈夫ですよシエルさん」
「ああ…。お前も無事だったんだな」
「もっちろんです!ファントムハイヴのメイドですから♪」
エリザベスを壁にもたれさせていると、床に転がるデスサイズが目に入った。
「はいグレルさん!お返しします」
いつの間にか体を起こしていた彼めがけて鋏を放つ。
「キャァアアッ!危ないじゃないのヨ小娘ッ」
「はっ!使えない貴方に言われたくないのですよー」
腰に手をあて見下した口調の私にグレルはキィーッと地団駄を踏む。
「良くできましたねリユ。ですが」
笑みを浮かべていたセバスチャンの視線が上へと移る。紅茶色が捉える先にはドロセル カインズが立っていた。
「僕は考えました」
いつの間に張り巡らされたのか、ドロセルの操る糸が私達の体に絡みついてきた。
身動きのとれない私達を見下ろし彼は淡々とした口調で言う。
「今度の人形は何を使って作りましょうかと」
「では、貴方は何で出来ているのですか?」
セバスチャンの問いに人形師は首を傾げる。
自分は人間の筈だと言うドロセルだったが、近頃白蟻が…と、彼は此方への気を逸らした。
セバスチャンはその瞬間を見逃さず、転がっていた斧を足で拾い上げる。
上へと蹴り上げれば、それはドロセルに命中し緩んだ操り糸はするりと解けた。
「グレルさん」
落ちてきた斧をキャッチしセバスチャンは赤い死神に目を向ける。
グレルは嬉しそうにセバスチャンの胸へ飛び込もうと駆け出した。
「愛の共同作業ねっ!セバスちゃ〜、買Oヘエェ…ッ」
死神の顔面を容赦なく蹴った執事は彼を踏み台にドロセルのもとまで飛び上がる。
「貴方からは執事としてのポリシーも、色を感じない」
容赦なく振り降ろされた斧。
頭を割られた人形師は、倒れているグレルの上へと落ちてきた。
「ぐえぇッ…」
散々なグレルと違い、セバスチャンはいつものように余裕ある態度で着地する。
「色のない男に負ける筈はありません」
「アァンッ流石は色男〜♪」
セバスチャンとグレルに呆れるシエルは、頭を割られたドロセルの中から出てきた藁を見て呟く。
「こいつも人形だったのか…」
魂は回収されていたにも関わらず、その肉体に仮初めの魂を込められ操られていたのだ。
「シエル……」
不意に発せられたか細い声に、シエルははっとしてエリザベスの顔を覗き込んだ。
彼女はうっすらとエメラルドを思わせる色の瞳を開けていた。
「エリザベス…!屋敷へ帰ろう」
「シエルの…、お誕生日会が、したいの」
エリザベスの言葉に一瞬碧の瞳が見開かれた。彼は複雑そうな表情をみせた後、再びエリザベスを見つめ絞り出すように囁いた。
「ああ、…祝ってくれ」
ほっとしたように金髪の少女は目を瞑る。
「安心して眠れ。もうすべては、」
「終わってはいないようですよ」
シエルの言葉を遮るセバスチャン。
その足下では倒れていた人形師が再び体を起こし始めていた。
†
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