その姫、表裏3/3
木々の間を抜け、辿り着いたのは不気味にそびえ立つ塔の前。
開け放たれた門は、シエル達が何事もなく物語通り先に進んでいったという証拠だ。
私は首もとのブラウスをぎゅっと握り締めた。
リボンが解けたといっても大した変わりはないので特に問題はない。
ただ、シエルさんには誤魔化せてもセバスチャンさんにはバレるだろうなあ…。
だからといってコートを閉めると動きにくいから仕方ないか。
塔の入り口へと続く橋を渡り、真っ暗な中へ足を踏み入れた。
何処まで続くか分からない階段をひたすら登っていく。
いつの間にか付いていた自分の体力に少し驚いた。
この世界の季節が春の頃にやってきて、気が付けばもう冬。
登っているのか降りているのか分からないうちに、私はもうこんな所まで来ていたのか。
行動する度に大きくなる不安からは逃げられないけど、それに構う暇なんてない。
気になる事や分からない事だらけだけど、私は決めたのだ。
この世界で側にいてくれる人達の苦しい顔を見たくはない。
例えそれがエゴだろうと、ほんの少し笑顔が見られるなら、私は手を伸ばしたい。
そういう風に、生きていたい。
塔の上へ着くと、扉が開け放たれている部屋の中から騒がしい物音と声が聞こえてきた。
「グレルさん、貴方にも見えますね?」
「まあねぇ…でもぉ〜、刃こぼれしちゃいそうだしぃ…」
シエルを抱えたセバスチャンが、エリザベスの振り上げる斧の攻撃を交わし続けていた。
グレルは大して関心がなさそうに鋏のデスサイズを眺めている。
操り糸で動いているエリザベスの悲痛な表情に怒りの感情が芽生えた。
彼女を操るこの事件の黒幕、否、白幕に。
私の目では操り糸は見えないが、糸の存在さえ知っていれば十分だった。
「お願いしますよ」
斧を片手で受け止め、妙に艶っぽい声でセバスチャンがグレルに微笑む。
「やだセバスちゃ、ぐぇえっ!?」
私の跳び蹴りを背中に受けたグレルは奇声と共に床へ倒れた。
そのまま鋏のデスサイズを奪い取る。
「「リユ!?」」
セバスチャンとシエルの声が重なった。
「お待たせしました!リユちゃん華麗に登場DEATH☆」
手にした鋏の刃を広げ、私はエリザベスと糸の繋がっている上の方へと放り投げた。
(おい何を…!)(大丈夫ですよシエルさん!エリザベス様も大丈夫ですから!)(アタシが大丈夫じゃないわよぅ、このブスッ!)
(全ては、見渡せない)
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