その姫、紹介1/1
セバスチャンに連れられて、大きな丸眼鏡をかけたメイド服の女性が入ってきた。
「リユ、彼女はハウスメイドのメイリンです」
「初めまして」
一応初対面になるのだし、頭を下げて挨拶した。
「よろしくだ」
独特の彼女の口調を生で聞けるとは!
「リユは訳があってこちらのことや習慣をあまり知りませんから、色々と教えて差し上げなさい」
「は、はい!分かりましたですだ…」
返事をしたメイリンの頬が赤く染まる。
やっぱりセバスチャンのこと好きなんだなぁ。
メイリンにドレスを着せてもらい、
(その間に仲良くなった!)
廊下に出ると、待っていたセバスチャンに、よくお似合いですと、頭を撫でられた。
完璧子ども扱い…
慣れない格好によたよた歩きながら使用人室へ。
丁度休憩時間なのか全員揃っていて、私はすごく歓迎された。
「オレはバルド。よろしくなオチビちゃん」
オチビちゃんって…まあちびですけど。
「僕はフィニ。よろしくねっ」
「ふぉっふぉっ」
「あちらは、家令のタナカさんです。リユと同じ日本の方ですよ」
椅子にちょこんと座ってお茶を飲むタナカさん。
ああ、緑茶飲んでる…!!
「よろしくお願いします」
それから少し会話をして、私が16歳だと言ったら、タナカさん意外みんな驚いた。
「マジか!?オレは、てっきり坊ちゃんよりも年下かと」
「それじゃあリユは僕と同じ年だね!」
「みっ見えないですだ」
一体私ってどんだけ子どもに見えるんだ…
「お喋りはこのくらいで。さあ、仕事の時間ですよ」
セバスチャンが手を叩くと、3人は素早く部屋を出ていった。
「さて、リユは坊ちゃんに呼ばれてましたからね。参りましょうか」
「あ、はい」
部屋に入ってきた私を見て、シエルはぎょっとした顔になった。
「なんだそのドレスは」
「彼女に合うメイド服がないものですから。エリザベス様のドレスをお借りしました」
「そうか…まあ良い。座れ」
シエルの向かいの椅子をセバスチャンに引いてもらい、私は見るからに高そうな椅子に腰掛けた。
…なんか緊張する。
ていうかシエルも美人さんだなぁ。あれ?なんか私、変態っぽい?
「何か特技はあるか?」
はい…?特技、ですか?
唐突に訊かれ、きょとーんと阿呆面な私に、彼は腕を組んで言った。
「メイドとして雇うと言ったが、何か自分を生かせる仕事があれば、それを優先してやろう」
マジですか!でも、特技って言ってもなぁ…
「園芸、なら少々…」
これでも園芸部ですからね。たまに花の扱いが雑だって指摘されたりはしたけど。
「園芸か。ならフィニの補佐をしてもらうか」
Σげ…!それはちょっと大変そう。
「他には?」
「ええっと…特技って言うよりは遥かに趣味に近いんですけど…」
しかも、これを生かす仕事が、この屋敷にあるとは思えない。
「なんだ?言ってみろ」
シエルに促され、ぽつりと呟いた。
「小説…」
「「え?」」
後ろに控えてたセバスチャンとシエルの声が重なった。
「一応、作家志望なんで小説を書いてました」
「小説か…」
「あっでも、シェークスピアとかルイス・キャロルみたいに、すごいのは書けませんよ。それに、この時代の感覚と私の作品の感覚が合うかどうかも分かんないし…」
そ・れ・にっ!!
本物の悪魔やら死神やらがいる世界なんてすでにファンタジーだし。
わざわざ空想の物語なんていらないよなぁ。
「それじゃあ、本は好きなのか?」
シエルは、いたずらっぽい笑みを浮かべて訊いてきた。
「え、まあ…」
なら、とさらに笑みを深くして
「お前に初仕事をしてもらう。書斎の本の整理を頼もう」
「本の整理?」
ファントムハイヴ家の書斎。それは是非見てみたい。
「セバスチャン案内してやれ」
「御意」
「ああ、そういえば」
彼は思い出したように、控えている執事に声をかけた。
「はい、何でしょう?」
「インドの縫製工場の件はどうなった?」
「その件でしたら順調に進んでおります。新しい担当も信頼の置ける方に」
「そうか。ならいい」
ん?インドの縫製工場?
「Σあぁあぁぁっ!!!」
「「Σ…!?」」
確かアニメ第1話、「その執事、有能」に、そんな話があった!
インドの縫製工場任されてたおっさん(名前忘れた。ダニアーノ?なんか違うような)が、シエルから金を巻き上げようとして、逆にセバスチャンに撃退されるっていう…
で、今の会話からして、もう第1話は終わってるということなのか。
新しい担当とか言ってたし。
と言うことは――
「どうしたんだ」
シエルが呆れたように溜め息をついた。
「変わった奴だな。まったく」
「すみません…」
「行きますよリユ」
クスリと笑う執事に続いて、私は部屋を出ていった。
シエルのいたずらっぽい笑みの理由が分かった……
広い書斎には、数え切れないほど沢山の本。
しかし ――
「なんでこんなに、ひっくり返ってるんですか…」
「誰も利用しないまま暫く放置されていたので」
そんなにっこり微笑まれても…
でもまあ、本の整理は嫌いじゃないし頑張るか。
セバスチャンを見送り、私はドレス姿で仕事を始めた。
これなら私服のままが良かった!
今更 後悔しつつ、壁一面の棚に本を並べていく。
時を忘れてしまうほどに静まり返った空間。
私は、静かな埃っぽいこの部屋で、どうしてこの世界にやってきたのか考えてみた。
一体何のために?私は此処でどうしろと言うのだろう。
大好きなアニメの世界。やってこれたのは嬉しい。
素直に楽しめば良いだろうか。
それとも――
隅に置いてある大きな時計を見ると、結構時間が経っていた。
「あー、考えてたらお腹空くぅ」
「では、休憩にしましょうか」
Σいつのまに!
すごい早さで後退ると、彼は自分の顎に手をあて首を傾げた。
「貴女は随分、私を警戒なさいますね」
「そんな事は…」
ちょっとありますけど。
「まあ良いでしょう。ところで、ケーキはお好きですか」
「え?あ、はい」
「坊ちゃんがアフタヌーンティーを、一緒にどうかと」
「ほんとですか?ぜひ!」
(セバスチャンお手製のスイーツが♪)(…?随分ご機嫌ですね)
(テンション上がる!)
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