自分の殻の中に閉じ籠ってばかりだった私を連れ出したのは、他でもなくあなたでした。
出逢いは偶然だったのかもしれないし、そうじゃなかったかもしれない。
けれどあの時、あなたはこう言ったでしょう?
「確かに、世の中には偶然と必然があると思います。でも、僕たちの出逢いは少なくとも偶然から必然になりました。なので今、名前さんと付き合えていることは僕の中では必然なんです」
それを聞いて泣き崩れた私を優しく支え、慰め、「泣き虫なところも昔と変わってないですね」と少しだけ意地悪を言ってきたね。
叶わないと思っていた恋心はいつの間にか通じ合って、一方通行から相互通行へ。
片想いが長かった分、今までの想いが溢れて、止まらないものを必死に自分の中で消化させようとしているも、なかなかソレは追い付けずにいる。
いつもわがままを言えずに自分の中へ溜め込んでしまう私。
けれど結局は、その薄い綺麗な空色の瞳でなにもかもが見透かされてしまっている。
そうしてあなたは言うのです。
「名前さん。僕も出来る限り、自分の気持ちをあなたに伝えます。あなたが今思っている気持ちを聞く努力をします。なのであなたも、一言一句漏らさずに僕に伝えてください。僕は一言だって、あなたからの言葉なら、想いなら、聞き逃したくはないです。一人で悩むのではなく、僕に話せることがあるのなら話してください。一緒に解決していきましょう」
いいですね?と、壊れ物を扱うようにそっと私の手を包み、微笑みながら言ってくれた。
今まで塞き止めていたものがようやくそこで溢れ出し、涙になり、声になり、あなたに届く。
一人は寂しい。側にいて欲しい。
あなたに触れて欲しい。
私がいるということを確かめて欲しい。
そんなわがままだらけの私の言葉をあなたはただ微笑みながら聞いてくれて、地べたに座り込んであなたの腕の中で泣く私を更に強く抱き締め、よしよしと子供をあやすように私の頭を撫でる。
だいぶ時間が経ってからようやく嗚咽が収まり、すんすんと鼻を啜る。
彼の左肩は私の涙でびしょ濡れで、おそらく私の目と鼻も真っ赤っかだろう。
「服、濡らしてごめんね」と決まりが悪そうに目を反らしながら謝ると、「気にしないでください。僕の肩はこのためにあるようなものですから」とまた調子のいいことを言う。
やめて。そんなに私を甘やかしてどうするの。
ただでさえ今泣いたばかりなのに。
この人は、また私を泣かす気なのだろうか。
「……また泣いちゃいそう」
「それはいけません」
「泣かせてくるのはテツヤだよ」
「では、責任をとらなければいけませんね」
「どうやって?」と聞いた問いに返事はなかった。
その代わり、ふに、っと唇に柔らかくて優しい感触が。
あっという間の出来事で、私が呆然としていることをいいことに、もう一度重なり合う唇。何回も、何回も、くっついては離れる。
いい加減、息継ぎくらいさせてくれないかしら。
あなたの熱い吐息がかかるたび、私の心臓がキュンと鳴いているのを分かってやっていそう。
(ううん、絶対に分かってる)
「……っ、テツ、ヤ」
「……はい、なんですか」
「からだ、もたない」
「明日はお休みだと聞いているので、もたなくても大丈夫かと」
うーん。そういうことじゃないと思うんだけど。
「それに僕は今、名前さんのお願いを叶えてる最中なんです」
「お願い……?」
「あなたに触れて、あたがここにいる≠ニいうことを確かめているんです」
ああ、私の子供みたいなわがままをあなたは受け入れ、実行してくれていたんだね。
本当、敵わないなぁ。
例えばね、もしもの話だよ?
テツヤが遠くにいて、私が今すぐ会いたいって言ったらどうするの?
なんとなくで聞いてみたことにも、あなたは真面目な顔をしてこう言うの。
「すぐに会いに行きますよ。あなたが僕に会いたいと思ったときは、僕も会いたいと思っているときですから。なので、」
──とりあえず今は、二人だけの世界になりませんか?
そっと柔らかいカーペットの上に押し倒され、優しく身体のラインなぞりながら聞いてくるあなた。
そうだね。
今だけはこの世界に、あなたと私、二人っきりがいいかもしれない。
(だって結局は、あなたのいない世界には私もいないのだから)
image song /aiko/くちびる
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