"もうすぐ今日が終わる。
やり残したことはないかい。"


好きな歌のそんなフレーズが、一瞬頭をよぎった。






毎年思うのは、この季節が、この時期が、あまり好きではないということ。



慣れ親しんだ高校生活も今日で終わり、四月から私は大学生となる。特に思い入れもなく卒業していくのだろうと入学当初は思っていたが、案外そうでもなかったらしい。現に今、ここを卒業するのを嫌だと、せめてあと一年だけでも過ごしたいと思っているから、学校というのは不思議なところだ。

卒業式の最中に所々ですすり泣く声や嗚咽が聞こえて、つられそうになったところが何度かあったが、そこはなにか変な意地が邪魔して素直に泣けなかった。ぐっと唇を噛んで泣くもんかと我慢していた気さえする。



教室に戻り、担任の先生から激励の言葉をもらい、仲が良かった友達との別れを再度悲しむ。この時ばかりはさすがに大泣きしてしまって目や鼻が真っ赤になって友達に笑われてしまった。離れても連絡取り合おうね、なんて、中にはうわべだけで言っている子もいるかもしれないが、今はこれで充分なのだ。今この時の悲しみを誰かと共有することが大事なのだ。



「…なーんか、結局三年間て長いようで短いよねぇ」
「うん。あっという間だった」
「思い残したこととかある?」
「うーん、あるようなないような」

だよねぇ、と親友の智世がしみじみと語っている。

思い返してみても「あ、あれきちんとやっておけばよかった」とか「なんであのときこうしちゃったんだろう」とか、言い出したら本当にキリがない。どっちにしても今日で高校三年間の自分とはお別れしてしまうのだから、そういった後悔は大事に心の中にしまっておくことにしよう。


「…あ。あるじゃん、あんた」
「…なにが」


どきっとした。


「好きな人に告白するって言ってなかったっけ」
「…できれば忘れていてほしかったよ智世さん」


…そう、

"好きな人に告白して卒業する"

ということが私にはまだ残っていた。

前々から智世は「告白しろ。付き合うか玉砕するかにしろ。いや、付き合え」と、背中を押して(?)くれていた。

結局、そんな親友の後押しをずるずると聞き流し、卒業式というこの日を迎えてしまったのだった。


「このあとバスケ部で集まりあるんでしょ。頑張ってきなよ。そんで、私が喜ぶような報告してよ。じゃないと智世ちゃん泣いちゃうよ」


うぇーん、とわざとらしく泣き真似をしているところで彼女の携帯が鳴り、「あ、それじゃあ彼氏迎えにきたっぽいからまた連絡ちょうだいね!」と、私のはっきりとした返事も聞かぬまま、あっという間に親友は帰っていった。

彼女のこのあっけらかんとしているところが、私と彼女の関係を長続きさせていてくれたのかもしれない。あれでも彼女は私の良き理解者だ。




 


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