「今日もおいしかったです、水戸部シェフ!」


名前ちゃんはお行儀よく手を合わせて「ごちそうさまでしたー!」と言い、「あ〜、幸せ〜」と呟きながら温かいお茶を飲んでいた。

僕が作ったハンバーグやサラダも美味し美味しいと何回も言いながら食べてくれて、全部綺麗に平らげてくれた。嬉しかった。



少しして、名前ちゃんがお風呂に入っている間に食後のデザートを準備する。
実は彼女がお昼寝をしている間に買い物ついでに内緒で買ってきたのだ。


そして、もう一つのプレゼントも。


どんな反応をしてくれるかな。
喜んではくれると思う。


驚くかな。
笑ってくれるかな。
泣いてくれるかな。


もし泣いてくれたのなら、それは嬉し泣きだといいな。



お風呂から上がってきた彼女を座らせ、髪の毛を乾かしてあげる。風邪を引いちゃったら大変だからね。


「いつも思うけど、凛くんに髪の毛乾かしてもらうの好き。気持ちいい〜」


そうなんだ? それなら嬉しいな。それじゃあこれからも僕がやってあげるね。名前ちゃんの髪の毛を乾かすのは僕の特権だね。


ほら、乾かし終わったよ。



(だから、今からの時間は僕にちょうだい?)









テレビを見ている彼女に声を掛けると、「なぁに?」とぽやっとした声で聞いてくる。


「こっちに来て。ここ、座って?」

「? はーい」


椅子に座って、なになに! と小さい子供のようにパタパタと足を鳴らして待っている彼女が可愛くて仕方がないなんて、僕も相当やられちゃってるなぁ。

目を瞑るよう促してから明かりを消して。

蝋燭に火をつけて。




「……はい。目を開けて?」




そっと開いた彼女の瞳はそのまま大きく開かれていって「ケーキだ……!」と驚いたように声をあげる。



そう、名前ちゃんのお誕生日ケーキ。



ごめんね。少し遅くなってしまったけど、忘れてたわけじゃないんだよ。


『お誕生日おめでとう 名前ちゃん』


そう書かれたチョコレートのプレート。生クリームがたっぷりで、フルーツもたくさん乗ってる。飾り付けも綺麗なものを選んだんだ。


「遅くなってごめんね。お誕生日おめでとう、名前ちゃん。一緒にこの日を迎えることができて僕も嬉しい。……こんな僕だけど、これからもよろしくね?」


ぐすっ……と鼻をすする音が名前ちゃんの方から聞こえたと思ったら、なんと彼女は泣いていた。その綺麗な瞳から涙が一粒、二粒。

僕がオロオロしていると、


「……私、今日が自分の誕生日だってことすっかり忘れちゃってた……!ありがとう、凛くんっ……!」


まさか自分の誕生日を忘れていたなんて。

僕もびっくりだよ。


そのまま泣きながら抱き着いてきた彼女を受け止め、今まで何回撫でてきたのか分からない、まあるい彼女の頭をよしよしと数回撫で、落ち着かせるように背中をとんとんと優しく叩く。

「……泣き止んだ?」と尋ねたら、「ぅえっ、まっ、まだぁ〜……!!」と子供みたいに泣いている。


困ったなぁ。

まだもう一つ、プレゼントがあるのだけれど。


「名前ちゃん。まだもう一つ、プレゼントがあるんだ。だから最後にもう一回だけ目を瞑ってくれる……?」

「……えぇっ……!もっ、もうこれだけでも十分嬉しいのに……!」


いいからいいからと私はまた目を瞑らされ、なにやらガサガサと準備する音が聞こえる。


ドキドキ、ドキドキ。

心臓の音が、どうか彼に聞こえていませんように。


「もう、いいよ」と声を掛けられ、そろそろと目を開けると……。


なんと私の視界はたくさんの花で埋め尽くされていた。


大きな大きな花束だった。



「……これ、どうしたの? なんていうお花……?」

「お花屋さんで注文したんだ。タチアオイ≠チていう名前ちゃんの誕生花だよ。意味はいくつかあるんだけど、僕からの意味は……」




──熱烈な恋。




だからどうか受け取ってください。


フワリと渡されたソレは薄いピンク色の可愛いお花だった。


「名前ちゃんと付き合ってからも、僕は毎日君に恋してるよ。新しい名前ちゃんを見る度、好きだなぁって思うよ。多分ケンカしても、考え方や感じ方が違っても、どんどん君を好きになるよ。来年も、それから先も、隣で君におめでとうって言うのは僕がいい」

もちろん名前ちゃんがそれを許してくれるならの話だけど……。


……ほら、またすぐにそうやって弱気なこと言っちゃって。私が毎日あなたを想ってること、分かってくれてないんだから。

でも、私のことを想って贈ってくれた花束、本当に本当に嬉しい。

明日はこのお花を飾るための花瓶を買いに行こうよ。それで、大事に大事にするからね。毎日ちゃんとお水も変えるからね。



ねぇ、凛くん。大好きだよ。

これからもこの先も、こんな私だけどよろしくね?

だからまずは、今から凛くんと、たくさんたくさんくっつきたいな。



「凛くんっ、大好き……!!」



今日だけは優しいキスだけじゃ足りないかも。

だからさ、私が飽きるくらい、あなたからいろんなキスをしてほしいな。


そう言ったら彼はなんて言ったと思う?



──僕からのキスに飽きることなんてないくせに。



だって! 大当たりすぎて、また涙を一粒溢してから、生クリームとフルーツみたいな甘い甘いキスをした。



どうかこれからも、彼と二人で笑い合えますように。







image song/奥華子/二人記念日

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