一組めのバンドが始まって、体育館内はすごい盛り上がりだ。

カーテンが閉めきられているため直射日光からの暑さは多少抑えられてはいるものの、やはり空気の熱さ、人と声の熱さ、汗の量がハンパじゃない。
久々のライブという感覚にこっちがやられてしまいそうになる。

しばらくしてから、みかから『どこにいる?』とLINEがきて、『ステージ向かって左側の壁沿いにいるよ』と返信。
五分もしないうちに人混みを掻き分けて彼女が来てくれた。


「はぁ……。ちょっと! アイツ、いつもいきなりすぎるから! おかげで着替えることも出来ずにそのまんま来ちゃったじゃん! 名前からも注意しといてよね!」

「ごめんって! 清志くんにはきちんと言い聞かせておきます!」


音が大きいのでお互いの耳元で叫び合う。


「あいつら何番めなの!」
「多分今やってる曲が終わってから!」
「わかった! これ終わったら前突っ込むよ!」
「え?! この人混みで?! 絶対むり!」
「そんなこと言ってると宮地ファンに負けるよ!」
「え、やだ! 名前の清志くんだもん!」
「それじゃあ突っ込む!!」


そう言ってみかは、曲が終わり、人の波が入れ替わると同時に私の手を引いて女子や男子達の間を掻き分けてどんどん前に突っ込んでいく。
さすがバンギャル。最前から三列め、超ドセンをとった私達はある意味最強かもしれない。
周りは秀徳の制服ばっかで私は埋もれてしまうけど、隣には目立つチャイナ娘がいるし、これなら清志くんも気付いてくれるはずだ。


早く幕が開けてほしい。


「お願いしまーす」と声がかかり、少しだけシン……と静まり返る中、イントロ部分が流れ出し、幕が開け、



清志の姿が、今、見えた──。









鈴木には、俺からも見つけ易い位置、三列めのドセン辺りに来るように連絡はしておいた。
アイツなら多分やってくれるだろう。
これでまた借りが出来てしまったが、いつでも俺の見える位置に名前を置いておきたいことには背に腹は変えられない。
高尾からの合図でイントロが流れ出し、俺もマイクを握る手に力が入る。下手したら、インターハイのときよりも緊張してるかもな。
ドラムの音と一緒に足でリズムを刻み、震えているのをごまかす。


幕が徐々に開いていき、大勢の声と熱さが同時に体に流れ込んでくる──!!



そして、一番に目に入ってきたのは、ほら。



いつだって俺の一番の大事な彼女──、
名前だった。




***




清志くん達のバンドは一曲めから盛り上がるような曲をブチ込んできて、最初から既にピークを越えているような感じにさせられた。

そして、これは私の勘違いかもしれないけど(ほら、よくある、アイドルと目が合っちゃった! キャー! みたいなやつ)、さっきからほぼほぼ清志くんと目が合っているように感じるのはやっぱり気のせいなのかな。ライトの反射とかでステージから客席は意外と見えないってよく言うし、でも、気のせいだとしても、こんなに目が合うように感じるなんてやっぱりおかしいよね?


「ねえ、みか! 気のせいかもしれないんだけど! 清志くん、さっきからこっちばっかり見てない?」


曲に合わせて拳を突き上げていたみかが、そんな私の質問に対してにんまりと笑う。
え、こわい。


「気のせいかどうか! 確かめてあげようか!」と言った彼女は、周りの声にも負けないぐらいの声量で、「みやじーーー!!かかってこいや!!」と、中指を突き立てて清志くんを煽ったのである。

そうしたらなんとまあ!
清志くんもみかに向かって中指を突き立て返したのだ!


「ねっ! だから気のせいじゃないんだって! さっきからアイツ、名前のことしか見てないよ! よかったね!」


と言ってくれた直後に、「宮地ぶっ殺す!!」と再び中指を突き立てた彼女には思わず笑ってしまった。


多分、みかに言われるまで、私のことを見てくれていたなんて確信持てなかった。
けど、やっぱり清志くんは世界で一番カッコよくて、誰よりもカッコよくて、私だけを見てくれているんだ。




ラストの曲に入る前に高尾くんのMCが入る。
「かずなりー!」やら「たかおくーん!」などの茶々が入り、彼も少しだけ照れているようだった。


「えっとー、今日は集まってくださってありがとうございました! 残念ながら本来のボーカルが体調不良になってしまい、急遽代役として、我らバスケ部イチのこわーい先輩、宮地さんがその代役を務めてくださいました! 本っ当にありがとうございました!」


そう言って、メンバー全員で清志くんに向かって頭を下げる。

自然と沸き起こる拍手に清志くんもどうしたらいいか分からないようで、「てめっ、高尾! 聞いてねえぞ!」と照れを隠すように怒っていた。
清志くん、マイクのスイッチ入ったままだよ。

「また怒られちった!」とうまく笑いを誘って空気を和やかにした高尾くんは、


「では、最後の曲にいきたいと思います。っと、その前に……」


と、なぜかそこで清志くんにマイクが渡った。

彼は特に慌てることもなく、


「えー、と。三年の宮地です。今日は代役の俺なんかの歌を聴いてくださってありがとうございました」


と、みんなに向かって軽い挨拶とお礼を述べたあと、再び私の方を真っ直ぐに見つめながら話しだした。


「俺のすげー勝手で皆さんにはほんと申し訳ないんですけど。……最後の曲は、今日ここに来てくれている俺の彼女に贈ります。では、聴いてください──、」


わぁっ、とその場が一瞬で盛り上がり、「宮地サイコー!」「てめー聞いてねぇぞ! ふざけんなー!」などと言った冷やかしが飛んでくるのに対し、彼は真っ直ぐにこちらだけを見つめていた。




──清志くん、
それは、二個めのずるい、だよ。




イントロが流れ出すとヤジを飛ばしていた彼らもだんだんと静かになる。


みんなが空気を読んだんじゃない。

彼がこの空気を作ったんだ。


清志くんの口から紡ぎ出される歌声は私だけではなくみんなを魅了する。
隣にいるみかの手を思わず握り締めると、彼女もぎゅっと握り返してくれた。


約五分ほどの歌が終わり、清志くん達はペコリと頭を下げたまま、幕が完全に閉じきるまでその頭を上げることはなかった。




 


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