ギャルソン姿から元の制服姿に着替え教室に戻った俺は、一瞬で視界の中に捕えた彼女が秀徳の制服姿になっているのを見て大きく目を見開いた。


(なんで、ウチの制服着てんだ? 夢? なわけないか。その前に、スカートの丈短くね? これがウチの女子の通常の長さだっけ? いや、もうワケわからん)


何が通常で、何が通常じゃないのか、もう頭ん中がこんがらがっちまってる。


でも、でも、なによりも先に言いたいのは、


「あ、清志くん。どうかな? みかに貸してもらったの! これで一緒に校内回っておいでー、って。これなら清志くんもあんまりジロジロ見られることも少なくなるかなぁ……って、……きゃあっ!」


手を引っ張って、ぎゅっ、っと抱き締める。
逃がさないように。
誰にも見られないように。


「……やばい。めっちゃ似合ってる。可愛い。すげー好き」

「えっ、えと、嬉しいんだけど……。みんな見てる、よ?」


名前の言葉ではっとなり、すぐにバッと離れる。

「宮地しね」って聞こえたけど犯人は分かってるし、正直俺も今は死にたい気分。
「わ、悪い」と謝ると、「ううん、嬉しかったから」と照れながらも素直に感想を述べる彼女に俺の思考回路はショート寸前。今すぐ会いたいわ。
じゃねぇよ! もう会ってるよ!


「……あんたら。一応ここ教室で営業中なんで。早くどっか行け」

「すみません。すぐに行きます」

「あ、みか待って! 写メ! 写メ撮って」


「はいはい……」と仕方なさそうに返事をし、「撮るよー。はい、ザーメン(カシャッ)」とシャッターを切られた。


(……って、鈴木おい! マジで!! 空気読めよ!!)


それを聞いていた彼女は爆笑。


(……まあ、名前が笑ってるなら大丈夫か……)


「あ、あと宮地」
「なんだよ」
「制服のこととかもろもろ含め、貸し10な」
「いや、そこはせめて3で……」
「ちっ。じゃあ名前に免じて5で許すわ。さっさと行ってこい」


そう言って再び仕事に戻っていった鈴木に(納得しないながらも)感謝し、やっと俺ら二人だけの学園祭が始まった。




***




まずは十分な腹ごしらえをしてから他学年のクラスを見に行ったり、胡散臭そうな占いの館なるものを覗いてみたり。
簡単そうな的当てゲームでボールを五個渡されて、五回とも全部はずす彼女。全然かすったりもしなくて落ち込む彼女を励まし、アイスキャンディを買ってやると途端に笑顔になる。
それにつられて俺も笑顔になるからとことん甘い。


そうして一通り見てぶらぶらしていると、ポケットに入っていた携帯が振動する。


『高尾和成』


あの生意気な後輩からこんなときに電話が掛かってくるなんてあまりいい予感はしない。出るのを渋っていると、「電話出ないの?」と彼女が聞いてくる。


「いや、高尾からだからあんまりいい予感がしねぇ」

「ダメだよ、出てあげなきゃ。緊急事態かもしれないでしょ?」


そう言われてしまうと何も言えない。


仕方なしに「……もしもし」と出ると、「宮地さぁ〜ん! ヘルプ! ヘルプミーです! 一生のお願いです! 体育館に来てください!!」だと。

かなりあせって泣きそうな声で言ってくるもんだから、名前が言ったように緊急事態か何かかと思ってしまう。
さすがにほっとくわけにもいかず、「すぐ行くわ」とだけ返し携帯を切る。


「……悪い。ちょっと高尾がなんかあったらしいから付いてきてくんね?」

「ほら、出て良かったね。私は全然大丈夫だよ!早く行ってあげよ!」


そうして俺の手を引っ張って歩く彼女に敵わない俺は、素直に言うことを聞くのであった。




***




体育館に入ると照明が暗くされていて、ステージはバンドが出来るようなセットになっていた。
既に人が多く集まっており、一組めのバンドが出てくるのを今か今かと待っているようだった。

ステージに程近い所で高尾を見つけ声を掛ける。


「高尾、何かあったのか」

「っ! 救世主キター!! 宮地さぁ〜んっ……! ほんっと、ほんっといきなりで申し訳ないんですけど! お願いします!俺らのバンドのボーカルとして出てください!!」



……………はぁ?!









「ようするに、てめぇらのボーカルが急な体調不良で休みになったから、代わりに俺がボーカルとして出ろ、と」

「はい……」

「別にお前ギターなら、歌いながら弾きゃあいいじゃねぇか」

「いや、それも考えたんですけど! 俺だって初めてのギターで精一杯で! そこにボーカルまでやれなんて言われたら、さすがのパーフェクト高尾くんでも無理ですって!」

「お前もうちょっと口を慎めよ」


調子のいい野郎には拳骨一発。

「いってぇ!!」と跳び跳ね、頭を擦る高尾。
オロオロしだすメンバーの一年坊主達。

そこに、今まで黙っていた名前が助け船を出してきた。


「まぁまぁ、清志くん。高尾くんもメンバーの子達も困ってるみたいだし、清志くん飛び入り参加したら? 私も清志くんが歌ってるの聴きたいし、ここで大人しく見てるから」


そう言って、キュっと服の裾を握って上目遣いで見てくる。


ピク、っと指先が反応し、抱き締めたい衝動に駆られる。まただ。
結局俺がこの目には逆らえないってことを彼女は知ってるようで知らない。
無意識もいいとこだ。


「………わかったよ。高尾、貸し5な」

「え?! 5ッスか?! うぅ……分かりました……。あ、名字先輩も! 宮地さん説得してもらっちゃってありがとうございました!」

「ううん、むしろ私が得しちゃうようなもんだから。ありがとね、高尾くん」


いたずらが成功したような顔をしてふふ、っと笑う。やっぱり彼女は高尾と同じくらい、いや、それ以上のスペックの持ち主かもしれない。


「それじゃあ宮地さん! さっそく打ち合わせしたいんでこっち来てください! ちなみに俺らの出番は二番めなんで!曲は宮地さんも知ってるやつばっかだから大丈夫だと思うッス! じゃ、名字先輩、また後で!」


……また二番めとか意外と早ぇじゃねぇか。学祭終わったらアイツ覚えてろよ。

とりあえず俺も久々に歌うわけだし、打ち合わせには参加しとかねーと。


「……ってことでちょっくら行ってくるわ。名前一人だと心配だから、ここで鈴木と見てろな。鈴木には俺から連絡しておく」

「うんっ、ここで見てるね! 清志くんは心配症だね。そんなところも好きだけど! 行ってらっしゃい!」

「……おう!」


そんなこと言われたら、カッコいいとこ見せたくなる気しかしねぇよ。





 


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