まだ少しだけ暑いなと感じる秋晴れの日。


ここ秀徳高校は本日から三日間、「秀徳三大行事」である内の一つ、学園祭が開催される。

夏休み中は誠凜との合同合宿、休みが明けたと思ったら今度は中間テスト。
三年生という立場になりいろいろと忙しい中で、最後に羽を伸ばせそうな行事をやっと迎えることが出来た。
もちろん、俺にとっても三年生全員にとっても最後の学園祭だ。いい思い出にしたい。

俺ら三年生は全クラス必然的に模擬店になるわけだが、テストが終わるや否やみんな浮かれて準備をし出し、どんな模擬店にするか、どんなメニューにするかで大騒ぎ。
ちなみに俺らのクラスはコスプレ喫茶らしいのだが、俺に渡された衣装はギャルソン。シンプルだが、まだまだこのクソ暑い中、ベスト+長袖白シャツ+ネクタイなんか着て客にへコへコするなんてやってられっか!


──などと思っていた自分はどこへいったのやら。


少し前にそのことを電話で彼女に伝えたとき、

「え! 清志くんのギャルソン! 超見たい! その日遊びに行くね!」

と、語尾にハートを付けて言われたときには嬉しさの余り一人ニヤけていたが、そこは冷静を装い、「待て。平日だぞ」と返したら、「え? 学校休むだけだから問題ないよ? この前のテストもめっちゃ良かったし! またみかのお家に泊まらせてもらおーっと」と、なんでもないように返してきた。


ああ、可愛い。好きだちくしょう!



──とまぁこんな感じで、愛して止まない彼女が、名前が来てくれるとなっただけで俺は万々歳。むしろ喜んで自らその衣装を着る気になった。


そんな訳で俺は今、暑い中ピシッとギャルソンを着こなし、もうすぐこのクラスに来てくれるであろう彼女を待っている。


「宮地、名前もうすぐ着くって。迎えに行ってあげたら?」

「ああ。てかお前その格好とヅラなに」

「は? 見ての通りチャイナ服だけど。あとヅラじゃなくてウィッグね。オッサン、時代についてこいよ」

「お前ちょっとまじで轢かせてくんない?」


そんな俺の言葉を無視して、「いらっしゃいませー」と接客を始めた鈴木。


いつか絶対フルボッコ。




***




下駄箱まで名前を迎えに行くと、すでに彼女は他クラスの野郎共に捕まっていてピシッと眉間にスジが入る。


「ねえねえ、そこの可愛いオネーさん! 一人? よかったら俺らのクラス来ない? オネーさん可愛いからドリンク一杯サービスしちゃうよ〜!」

「いえ、彼を待ってるので大丈夫です」

「えー! 彼ってウチの学校のヤツ? だれだれ? てか君みたいな可愛い彼女待たせるヤツなんてやめてさ! 俺らと一緒に回ろうよ!」


好き勝手言ってくれるじゃねぇか。


「悪かったな。俺みたいな待たせるヤツで」


そう言って、俺よりも小さいそいつらを見下ろして睨むと、


「……え。あ、宮地の彼女さん、ですか。すいません! ほんとすいません!!」


と、脱兎の如く逃げていった。

なんだアイツら。死ね。てか後で轢く。


「待たせてゴメンな」と謝ると、彼女は何故か顔を両手で覆い、そのまま動かなくなってしまう。「名前? ゴメン、怖かったか……?」と聞いてみるが、少しだけ顔を横に振っただけでなかなかその両手が崩されることはない。
下から覗き込むようにして、彼女の手をつつく。


「……名前ちゃーん。顔、見せてください」

「……、やだ。…………清志くん、ずるいよ」

「え?」


そう言って指の隙間から片目だけをこちらにのぞかせ、少しだけ涙目で見つめてくる。


俺、まじでなにした?


「名前? ごめん、ちょっと俺、自分が何したかわかんね……」

「……ちがうの。清志くんは何もしてないの。私が、今は顔見られたくないだけ……」


ん、ん? なんで顔見られたくないんだ?
名前に絡んでる奴らを普通に追い返しただけだと思うんだが。

そうしてふと目線をずらすと彼女の耳が目に入る。
かわいいピアスをつけているその耳は何故か真っ赤で──。


(……なんで耳赤い? そんでもってずるい≠フ一言? …………いや、まさか、な)


そうだ。そんなわけがない。でも、可能性はゼロではない。

だってそれは名前だから=B

怒られるのを覚悟して、しゃがんだままその可愛い顔を見えなくさせている両手をひっぺがす。


「! やっ、清志くっ……!」

「…………やっぱり」


思った通り、彼女の顔は、それはもう誰が見ても分かるぐらいには真っ赤だった。
多分顔が赤くなっていることがバレたくなくて、それで少しだけ涙目になっているんだと思う。
上から見る彼女も可愛いけど、俺が下から見て、こっちを見下げてくる彼女も可愛い。

ていうか今日の俺、名前のこと可愛いとしか思ってないよな。


「名前、」

「……なに」

「なんでそんなに顔真っ赤なの」

「……言いたくない」

「そっか。じゃあ、これはただの俺の自惚れだと思って聞いて。違うんなら違うって言ってくれていいから」

「………ん」

「……今の俺の格好見て、カッコいい≠チて思ってくれてた?」


それを言った瞬間に、ブワワワっと効果音が付くぐらいには更に赤くなった彼女の顔。
よし、ビンゴ。

わざとらしく、「名前がギャルソン姿の俺を見たいって言ってくれたから、暑いけど頑張って着たんだぜ」って言ったら、


「……うん。私が言った、けど、」

「けど?」

「……想像してた以上にカッコ良すぎて、心臓バクバクいってる。倒れそう……!」

「ぶはっ、それは俺が困るからやめろよ」


なんて言って、また俺の心臓を掻っ攫うんだから。

ほんと、たまんねぇよ。




 


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