「名前ちゃん、最近出来た彼氏とはうまくいってるの?」


学校にいる間で唯一楽しい昼食の時間。

友達にそう聞かれ「もちろん、うまくいってるよ」と、直ぐに答えられなかったのはなんでだろう。






『彼』──福井健介とお付き合いを始めてからもうすぐ二ヶ月が経とうとしている。
まだ二ヶ月か、と感じる人もいれば、もう二ヶ月か、と感じる人もいるだろう。

数字的に見てしまえばもちろん前者の方。

しかし、距離的な問題により、月日だけが経つばかりで会えていない。彼氏・彼女という感覚を味わえていない。すなわち、私がこの関係性に夢見ていたことはほとんど何もないまま、"もう" 二ヶ月が経ってしまっていた。


「もしかして、うまくいってないの?」

「いや、うまくいってないわけじゃないよ。メールも毎日ではないけどやり取りしてるし、電話も時々する、かな」

「じゃあうまくいってないわけじゃないんだね」

「いや、まぁ、……うん」


私が曖昧な返事をするので友達もどう返答していいのか困っているようだった。
困らせてごめん。


「いや、なんかさ。やっぱ遠距離だし、付き合ってから会ったのも一回だけだし。でもそれはしょうがないって思ってるし。だから、…… 」

「本音は?」

「……うっ……、めっちゃ会いたい、かな」


こんなこと言うキャラじゃないけど……と付け加え、恥ずかしいのを誤魔化すように笑う。


だって実際そうだから。


こんな見た目で、校則とか普通に破ったりしてて(でもヤンキーまではいかないと自分では思ってる)、それで「寂しい」とか「会いたい」なんて言えるわけないじゃん。

そこは察してよ!って言いたいけど、それも身勝手だって分かってる。

今何してんだろ、とか、バスケ頑張ってるのかな、とか毎日思ってることだって彼が知るわけない。
いつかの記念日でいいから、お揃いのピアスとか付けれたらいいな、なんて思ってるなんて知るわけない。


私ばっかり会いたいみたいで、少しだけ腹が立つ。




***




「お前さ、『自分ばっかり』とか思ってんの」


帰り際、後ろからいきなり宮地が喋りかけてきた。

なに、急に。頭だけは無駄にいいくせにちゃんと日本語作れよ。意味不。


「人との会話の仕方って習ってる?」

「は?てめぇ、轢くぞ」

「わー、こわい。ちえに言い付けるよ」

「おまっ!ここでアイツ出してくんなよ!……っじゃなくて!さっきの!どうなんだよ」

「なにが」

「……〜だから!『自分だけが寂しい』とか思ってんのか、って聞いてんだよ」


なに、急に。なんで宮地にそんなこと聞かれなきゃいけないの。こいつ昼休みのときの会話聞いてたな?うざ。とりあえずちえに言い付けること増えた。ウケる。


じゃなくて、


「……思ってるけど」

「……お前それ本人に言ったことあんのかよ。今思ってる自分の気持ち、全部言ったことあんのかよ」

「………」

「言ったこともねえくせに『自分ばっかり』とかちょっと身勝手すぎるぞ。向こうの気持ちも知らねぇくせに」


じゃ、俺部活行くから──。


それだけ言って部活に向かう宮地にも腹が立つ。


だから中途半端に喋って消えるのやめてよ。
向こうの気持ちも知らねえくせに、ってなに。健介が私と同じこと思ってるってことなの?そうなの?

もしそうなら──健介も寂しいって思ってくれてるなら、直接健介の口から聞きたい。私だって伝えたい。


こんなことで、心まで離れたくない──。



そう思った瞬間、教科書等は何も詰めずに鞄を持ち下駄箱に走る。走りながら携帯の電話帳を開き、ちえの番号にコールする。


今日は金曜日。先生には悪いけど、明日の補習は休む。ごめんね先生!


でも、補習よりも大事なことが出来ちゃったから。私、頑張らなきゃ。


『もしもーし、どうしたー?』

「ちえ!急でごめん!何時に着くか分からないけど今からそっち行く!泊めてほしいから叔母さんに伝えといて!」

『え?!全然いいけど……今から?!明日学校は?!』

「あるけどっ…休む!問題ない!宮地のアホな話いっぱいあるから!聞きたいだろ!」

『当たり前だ。急いで来い。福井はこのこと知ってんの?』

「はぁ、はぁ……っ、知らない!内緒にしといて!それじゃあっ、また後で……!」


そうして相手の返事も聞かぬままピッと電話を切る。息が荒い。喉が痛い。足が痛い。心臓が痛い。


けど、気持ちいい。


「待ってろバカ介!!」


そう叫んで、
早く、彼に会いたいと思った──。


 


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