予告が始まると彼女が急にカーテンを閉め出した。光が遮られ、部屋の中が少しだけ暗くなる。
「……なんで閉めんの」
「え?だって雰囲気出るじゃん。それに明るいと集中できないし」
いや、俺も別の意味で集中できねぇよ。
「健介下で見てね。私ソファーで見たいから」
そう言って彼女は、二人掛けのソファーを一人で独占し、俺をローテーブルとソファーの間へ座らせた。
俺もソファー座りたいんだけど……とは思ったが、こっちの方が彼女が視界に入ることもないし、結局ソファーが背もたれになってくれるからで俺的にも調度良かった。
映画が始まってからおよそ一時間。
ここまでは順調だった。
しかし暫くすると、「よいしょ」と言って、彼女が隣に座ってきたのだ。そしてそのままコテンと俺の右肩に頭を預けてきた。ピクっと、右肩が跳ねる。
ちょっと、あまり良くない兆候だ。
そうしてまた暫くすると、今度は例の、俺の苦手な際どいシーンがやってきた。
画面には、厭らしいキスを繰り返す男優と女優。耳に残る息遣いと服を脱がす音がやけにリアルで、首もとからジワリと汗が吹き出し変な手汗が出るしでちょっとヤバい。
気を紛らわそうとチラリと隣をみたのは間違いだったのかもしれない。
横髪で顔はあまり見えないものの、おそらく真剣な眼差しで画面を見つめている彼女。
──今お前はこの場面を見て何を思ってる?誰を考えてる?
そんなことを思いつつふと目を逸らすと、肩から見えるブラジャーのストラップと、スキニーの間から少しだけ見えた下着。
──赤、だ。
中にキャミソールを着てはいるものの、襟元から胸の膨らみが分かる。
確か以前、何かの話から胸の話になり、彼女は自分から「私、オッパイ大きくないからさぁ。ごめんね」なんておどけて言ってきて「どんまい」なんて軽く返したけど、内心ではいろいろな思いが渦巻いていた。
──前付き合ってた奴とは最後までいったのか?そいつに胸が小さいとか言われたのか?
もし俺の予想が当たってんならそいつをぶっ殺したいし、あわよくば、こいつに関わった男の記憶を全て俺にすり替えてほしい。
付き合ってもうすぐ一年。
受験やらなんやらでなかなか次に進めなかった(もちろん大事にしていたからというのもある)が、俺らもそろそろ次のステップにいってもいいんじゃないだろうか。
──そうして、冒頭部分に至るわけだ。
そんなことを考えているうちにいつの間にかラブシーンは終わり、そろそろ時間的に映画の折り返し地点にくる頃。
その時だった──。
「けんすけ、」
アイツが俺の名を呼び、あぐらをかいている俺の右腿に手を乗せ、少し腰を浮かせたと思ったら、気付いたときには互いの唇が重なっていた。
「っ!」
いきなりのことで反応が遅れる。
舌こそ入れてきはしないものの、チュッ、チュッ、と何回もアイツから俺の唇に触れてくる。
が、それもほんの数秒。
仮にケンカの主導権は向こうに譲るとしても、いつだってこういったことの主導権を握るのは俺がいい。
彼女の肩に腕を回し、グッと引き寄せる。
ふわりと甘いムスクの香りが鼻先を掠めた。いつもならこんな甘い香りなんて付けないくせに。
なんだよ、誘ってんのかよ。
いつまで経っても口を開かない彼女に痺れを切らし、俺の方から舌先で唇をつついてやる。すると観念したのか、少しだけ開いたソコに待ってましたと言わんばかりに舌を突っ込み、絡ませ、吸い付き、そして少しだけ噛んでやる。
こいつ、噛まれるの好きだったよな。
「……っ、ふ、ぁっ……んっ」
キスの合間に「痛い」と呟いた彼女に「そんな強く噛んでねぇよ」と返し、続きを続行する。
「んん……、けんすけ、待っ……」
「………なんで。誘ってきたのお前だろ」
「なっ、誘ってないっ……!」
「じゃあ、なんでいきなりキスしてきた」
うっ……と言葉に詰まる彼女。
──まさかとは思うが。
でも、悪戯心で聞いてみるのもありだ。
「さっきのキスシーンで欲情した?」
耳にふっ、と息を吹き掛け優しく囁いてやる。
「んっ……」と下唇を噛み、少しだけ悔しそうに潤んだ目で俺を見つめてくる。
だから、そういうの、やめろって。
「なぁ、教えて」
そう言って、こいつの口を塞いだ俺は悪魔か、それとも天使の顔をした狼か。
必死に俺のキスに応えるお前が可愛くて、なんだかこのまま二人で溶けそうだ。
悪いけど、今日はちょっと家に帰せそうにないわ。
ゴメンな、名前。
***
ネタはフォロワー様からいただきました。
考えてくれたようなお話になってなかったらごめんなさい…。