誰か、俺の理性が爆発しそうなのを抑えてくれないか。

頼む、誰でもいい。
なんなら岡村がいいかもしれない。


ちょっとこの状況は、非常にまずい──。







高校を卒業し、秋田からここ、東京の大学に進学してきた俺は、慣れない土地や電車の種類の多さ、人の多さに悪戦苦闘しながらも、なんとか友達もでき、めまぐるしい生活を送っていた。

上京するにあたって必然的に一人暮らしの生活になるわけだが、そこそこ家事は出来ていると自分では思うし、部屋もまだそこまで汚くはない。

近場には、俺と同じく上京してきて一緒のアパートに住んでいる岡村もいるし(アイツは一階、俺は三階)、高校時代にバスケを通じて知り合いになった奴らもいるから特に寂しいという気もあまり感じられない。

寂しさといえば、秋田と東京で遠距離恋愛中だった彼女との距離もだいぶ、というか、大幅に近くなったので、尚更そこの寂しさというのは埋まった。


そんなこんなで、今日は久しぶりに彼女とのデート。


と言っても、どこかに遊びに行くわけでもなく、俺の家でゆっくり過ごそうということになった。

まだこちらの生活に慣れていない俺を気遣ってか、家でDVD観賞でもしたり、ダラダラして過ごそう、という彼女からの提案だった。


昼頃にはウチへ来て、飯を一緒に食べる約束だったはずなのだが──。




実は数分前に、

『ごめん、電車遅れてるっぽい。また駅に着いたら連絡する』

と、彼女から連絡が入った。


「んだよ、まじか」と、ため息が出た。


たった数駅しか離れていない距離なんて、高校の頃のことを考えたら全然余裕なはずなのに。
しかしだからと言って、会っていられる時間を減らされるのは勘弁してほしかった。

都会ってたまに、ほんとたまにだけど嫌になるわ。


とりあえず昼飯作っておくか──、と腰を上げたところで家のインターホンが鳴る。


岡村か? それともまた新聞の勧誘か? と少しイライラしながら「はい」と返事をし、ドアのチェーンを外しにかかる。

しかし岡村なら「福井!わしじゃ!」の一言があるし、勧誘系なら必ず「こんにちはぁ」と人の良い声色から始まる。

誰かからの冷やかしか?と思いながらガチャリとドアを開けると──


「やっ。おはよー」

「………はよ」


先ほど、電車が遅れていると連絡してきた彼女がいた。

「お邪魔しまーす」と呑気に入ってきて、ローテーブルの上に買い物袋をドサリと置く。


……ちょっと待て。電車が遅れてるんじゃなかったのか。


「……電車遅れてるって」

「ごめん、嘘。驚かそうと思って。お昼まだでしょ?買ってきたから食べよ?」

「……はぁ…。今度からそういうのやめろよ……」


なんで?みたいな顔して笑ってっけど、まじでこっちの気持ちも考えてほしい。


でもやっぱり憎めないから、これが惚れた弱みというヤツなのかもしれない。



 


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