一夜明け、窓から暖かい日差しが降り注ぐ陽気の中、外からは賑やかな音が聞こえてくる。


近くに公園があるため、主婦業をさらりとこなし、井戸端会議をするために集まってきたお母様達の声や子供の達の声、近くの道路で工事でもしているのだろう、若いお兄さんやオジ様達の声。普段の私ならば「うるさいなぁ」と思いながら仕事へ行く準備をしたり、家事をしたりするだろう。


しかし、今回の朝はいつもと違う朝であることを理解していただきたい。


まず、今まさにキッチンで朝食を作ってくれているであろう男の子。

名前はーー…、知らないので後で聞こう…。

昨夜のことは、正直言うとあまり覚えていないのだが、ゴミ箱に捨ててあった使用済みのモノとティッシュがいろいろと物語ってくれている。泣ける。

この年にもなって、ヤケクソでそこら辺の男の子連れ込んでヤッてしまうなんて、私もまだまだ若いな…なんて的外れなことを思っているうちに、例の男の子が美味しそうな朝食を持って現れた。


「遅くなってすんません。冷蔵庫にあったモン、勝手に使わさしてもらいました。冷めないうちにどうぞ」


そう言って目の前に並べられた朝食はいたってシンプルなモノだった。

「いただきます…」と手を合わせ、温かいご飯と味噌汁、目玉焼きとベーコン、賞味期限間近だった漬物に手を付ける。「…美味しい、です」と呟くと、「ならよかったです」と返事が返ってくる。朝食を誰かと食べるという久しぶりの感覚に口の端がムズムズする。

特に会話もなく、若干だが、付けていたテレビからの音だけがこの空気を和ましてくれている気がした。

さて、何から話せばいいのやら…。ここは年上として、そして逆オオカミ化してしまった責任として、私から何かを発言しなければ…。


「あの」
「…!は、はい」


先手を取られてしまった。


「敬語、やめないっすか?俺の方が年下なんで」
「あっ…そう、ね。うん。じゃあ普通に喋るわね」


あ、見た目で分かっちゃいますかね。ごめんなさいね、オバサンで。


「はい。あと今更ですが、福井健介っす」
「名字名前、です。昨日は…」


なぜか出だしで「昨日は…、」と言ってしまったが、この続きはなんて言えばいいのだろう。みっともない姿をお見せしてしまってすみませんでした、逆オオカミ化してしまってすみませんでした。…こんな感じ?…もう自分の第一印象が最悪すぎて好感度を上げる気力もない。誰かヘルプミー!!


「あの、昨日はすんませんでした」
「……えっ。……どうしてあなたが謝るの…?むしろ謝らなくちゃいけないのは私の方で…」
「?いや、逆になんで謝るんすか」
「いや、だって、その…あんま覚えてないけど…。私が多分酔っ払って…君を…お、襲っちゃった…とかだよね…?」
「……覚えてないんですか」
「…すみません……」


面目ありません。


うわー、怒ってる、よね。どうしよう。でも謝ることしか私にはできないし、それこそお金の問題にするのはあのクソ男と同じレベルになるみたいで嫌だ。こういった場合の解決策を誰か教えてくれないだろうか。


「襲われた…っていうより、」
「…うん?」
「むしろ、俺自身も合意の上でヤったことなんで」
「……」
「…なんで、名前さんだけが罪悪感、っていうか…そういうの感じなくていいと思うし…。…まあそんな感じで、お互いこの事はチャラにしませんか」



『チャラにしませんかーー』



そう彼が言ったので、内心少しびっくりしてしまった。あ、あなたは(軽はずみの行為だからこそ?)チャラに出来ちゃうんだ、と。そしてこれもまたビックリ、合意だったのね、と。それもそれでどうしたらいいのか分からないけど。(まあ男の子だし、据え膳食わぬはなんとやらって言うもんね)



 


戻る


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -