その後、近くの大型アウトレット家具屋に到着し、とりあえず一番の目的のベッドコーナーへ移動する。
種類さまざま、もちろん値段もピンからキリまで。

「どういうのが希望なんすか」と聞かれ、「うーん。シングルじゃなくて、出来たら収納とかも出来るベッドがいいな」と答える。

そうしてぶらぶらと歩き回って見ていると、唐突に質問を投げ掛けられた。


「なんでシングルじゃないんですか」

「え?……あぁ、ベッドのこと?私、寝相悪くてさ。最初はシングルだったんだけど、やっぱ何回かベッドから落ちちゃったりしたの。だからちょっと大きめのがいいんだ。今のもセミダブルだし」


そう言って、じっくりとセミダブルのベッドを見ていく彼女。

いやいや、寝相の悪さの改善に取り組んだ方がいいのでは?と思ったが、あえて口には出さなかった。

結局、店員さんも巻き込みいろいろと吟味し、最終的に収納付きのセミダブルで丁度いいものがあったためそれに決まりとなった。
ちなみに組み立て等はすべて業者に任せることとなり、それは休日に決まった。

新たなベッドカバーも新調してどこかウキウキ気分な彼女。

これで今日の俺の役目は終わりだが、時間はまさに夕飯時。このままご飯でもどうかと思い、聞いてみようと思った矢先のことだった。


「今日はありがとう!久々に大きな買い物が出来て良かった。お礼といっちゃなんだけど、よかったらウチでご飯食べていかない?お腹も空いてきた頃だと思うし」


どうかな?と、コテンと首を傾げて聞いてくる。

こちらとしてはメシ代が浮くのでありがたいの一言です。

結局そのまま近くのスーパーで材料を買い(もちろんお金は全て向こうが出してくれた)、再び彼女の家にお邪魔することとなった。




***




夕飯を食べ終えなんとなくそのままテレビを見ていたら、「明日は朝早い?」と聞かれる。


「いや、明日は昼からバイト。んで、そのままバーの仕事に行きます」

「そっか。んー、君さえよければ一緒にどうかなーと思ったんだけど」


そう言ってニヤニヤしながら缶チューハイを見せつけてくる彼女。

なんだかんだ俺に選択権があるようにみせかけて、結局はない、ということは分かる。じわじわと見えない圧力がかかっている。


「……じゃあ、まあ、新しいベッドを迎える前祝いということで」と言うと、「いぇーい!前祝いありがとう!飲むぞ〜!」と言って冷蔵庫からじゃんじゃん出てくるお酒お酒お酒。ちなみに彼女も明日は午後からの出社らしい。





そうして乾杯をしてから1缶、2缶と調子良く飲んでいる彼女だが、いくら午後からの出社と言えど体調には良くないんじゃないのだろうか。

俺の方は、いつも通り、いつものペースで飲ませてもらっている。特に酔いそうな気配も今のところない。軽めのつまみを食べながらお互い他愛もない話をする。


前から思っていたことだが、この人と話をするのは嫌いじゃない。むしろ普通に楽しい。
ほぼ初対面と言ってもおかしくない女性なのに、こんなにも話が進むのはただ単に相性がいいからなのか。
それとも、あの日あの夜にバーで本来の姿を見ているからなのか。その姿を見た後で、この場所で、彼女と繋がったからなのか。

それは自分でも分からない。

たかだか一回繋がっただけで、こうして家にお邪魔してご飯をご馳走になっているからといって俺は彼女と付き合っているわけではない。もちろん彼女もそれは分かっているはずだ。

ならば、この奥底からジワジワと沸き上がってくる熱はなんなのか。彼女の仕草や視線、手の動き、口元や喉元に目がいってしまうのはなんなのか。
とうとう俺も酔ってきたのだろうか。

……いや、だめだ。今回はそういうコトでお邪魔しているんじゃない。


「すいません、ちょっとトイレ借ります」

「はいよー」


俺が思っていたよりもはっきりとした返事が返ってきて少しホッとした。
トイレを借りたらいい加減に帰ろう。
時計の針はもう少しでてっぺんを指そうとしている。

用を足し、洗面所で顔を洗い気を落ち着かせてから部屋に戻ると、なんと机の上で突っ伏して寝ている彼女。
おい、まじか。

申し訳ないと思いながらも彼女の体を揺すり声を掛ける。


「名前さん、起きてください。俺もう行きますんで。寝るならベッド行ってください。あと、メシ、ご馳走様でした」


恐らく聞こえてはいないだろうが、一応お礼は言っておく。

「うっ……んん、ねむい……」と言って起き上がった彼女は、まだどこか夢の中にいるようだ。
ぼーっとこちらを見つめてきたと思ったら、今度は「ベッドまで連れてって」ときた。


「だめです。自分でいってください。ほら、風呂も入ってないでしょ」

「……明日の朝シャワー浴びるからいい。それよりも今は眠たい」


……なんていうか、本当にこの人は俺よりも年上なんだろうか。時々自分よりも子供っぽいところがある。そう思ってしまうのは仕方のないことではないだろうか。いや、仕方ない。

久々に反語使ったな……と思いながら、とりあえず彼女を起き上がらせて肩を担ぎ寝室まで移動する。
この部屋には一度入っただけなのに、暗い中、電気を点けることもなく、なんとなくでベッドまで辿り着いた俺を誰か褒めてほしい。

彼女の腕を肩から外しベッドに寝かせようとしたところで急に彼女が動いたものだから、案の定俺ごとベッドに沈む。端からみれば俺が押し倒したように見えるが、これは事故だ。

しかし本当に事故かどうか怪しい点が一つ。

彼女の腕が俺の首に巻き付いている。離してくれるような気配は微塵も感じられない。


「……名前さん、この体制はやばいからちゃんと起きて。もしくはこの腕離して」


そうしてうっすらと目を開けた彼女に再度頼む。


「名前さんが腕離してくれないと俺帰れない。ほら、早く」


俺も一応男なんだから理性というものはあるわけで。今少し崩れかかっている理性という壁を彼女は壊す気なのか、そうじゃないのか。

見つめ合っている時間が長い。彼女も目を逸らさないし、俺も逸らさない。逸らせない。

(多分このときに、俺が先に目を逸らして、無理矢理にでも彼女を剥がして帰れば良かったんだと、後になって思う)


「……帰るの、?」

「帰ります」

「やだ」

「やだ、って……。名前さん酔ってるし。お互い明日仕事」


そう言って離れようとすると巻き付いている腕に力が入り更に距離を詰められる。多分お互いの顔の距離は30センチもない。


「言っとくけど、もう酔いは覚めてるよ」

「!」

「確かめる?私の名前は名字名前。あなたの名前は福井健介。私は数日前に彼氏に振られて、バーで飲んでいたらあなたと出会った。そのままあなたと一夜を供にして、今日はあなたに買い物に付き合ってもらった。ここは私の家で、寝室で、ベッドの上。私は今、あなたを帰したくないって思ってる。だからこうして繋ぎ止めてる。これでいい?」


少しだけ蕩けた声で言ってきた彼女の目がギラギラしているように見えたのは多分錯覚でもなんでもなくて。
そして俺は、この目には多分勝てそうにない。


「……前みたいに後悔しても知らないッスよ」

「大丈夫。私から誘ったんだから」


そう言い終えた途端に彼女から重ねてきた唇。


結局、俺の壁は簡単に壊され、彼女はスルリと俺の内側に入り込む。今頃頭に回ってきたアルコールが余計にアドレナリンを分泌させているようで興奮が高まってしょうがない。

くちゅくちゅと厭らしいキスを繰り返しながら服を脱がし合い、お互い生まれたときの状態に逆戻り。
改めて見た彼女の体は、やはり大人の妖艶さが滲み出ていて少しだけ怖じ気付くが、「あのときは酔ってたからあれだけど、改めると……やっぱ恥ずかしいね」なんて言われた瞬間に、やっぱり可愛い人なんだと思わされる。


「……悪いけど、この前みたいに忘れた、なんてこと、今回はさせねぇから」


少しだけ意地悪く言ってやると、驚いたような顔をして「やっぱ若いってこわいなぁ」と言った彼女の首もとに顔を埋める。「……っん、くすぐったい」と聞こえた声は敢えて聞き流した。


なんてったって俺達は、今からくすぐったい以上の気持ちいいことをするんだ。


キスマークはあえて付けない。

その代わり、噛んで、舐めて、そうしてキスをして。


ただの動物に戻ったようなこの行為は夜が終わるまで続いた。


 


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