次の日、仕事が休みなのにも関わらずめずらしく昼前に起きた私は、適当な格好に着替え近くのスーパーへお昼ご飯を買いに行き、ついでに手頃な大きさの段ボールを持ち帰ってきた。

今は昼のニュースを見ながらご飯を食べているのだが、相変わらずこの世の中は不景気だし、そこら中で犯罪が起きている。聞いてるこっちまでもが憂鬱になるばかりだ。一つでも幸せなニュースはないのか、とキャスターに問いたい。

ちなみに今私が食べている冷凍チャーハンはなかなか美味しい。幸せ。

ご馳走様でした、と一人虚しく呟き、食器を水に浸けておく。

洗い物は帰ってきてからでいいかな。



さて、と。やるか──。


ふぅ……と一息吐き、服の腕の裾をまくる。

先程スーパーでもらってきた段ボールを組み立てガムテープでしっかりと留めたら、そこに元彼の私物をどんどん放り込んでいった。

服の着替えや下着、ネクタイにベルト、その他借りていた本やDVDなど。

どんどん放り込んでいくといっても結局は律儀にきちんと詰めてしまうので、こういうところで性格が出てしまうのがたまに嫌になったりする。
そうして、処分する物はゴミ袋へ、返すものは段ボールへと入れていくのだが、今では思い出したくもないような思い出がこういう時に限ってよみがえってくるものだ。


例えば──、


リビングにある、ラックの片隅に何気なく飾ってあったぬいぐるみ達。
いつの日か買ってもらったり、ゲームセンターでとってもらったりしたものだ。多少のほこりは被っているものの、まだまだインテリアとしては現役で活躍してくれていた。

ペットボトルのジュースに、「オマケで付いてきたからあげる」と言われてもらったストラップや、「おそろいだね」なんて言って買ってもらったアクセサリー。それぞれ、もらったその日からさっそく付けてたっけ。

ネックレスを付けてもらうときなんて、まるでお姫様のような気分。
ペアリングを嵌めてもらったときなんて、それこそ結婚式のように感じた。

ああ、私、多分この人と結婚するんだろうな──って思ってたのはいったいどこの女だ。

あのときは、これらのものが全て大事に思えて、見るたびに「好きだなぁ」と思ったけど。

今これらを見てみても、あのときのような純粋な気持ちは湧いてこなかった。

むしろ、心の中の虚しさだけがひょっこり顔を出したり、出さなかったり。
(もちろんこれらは全てゴミ袋行きになる)



これぐらいだろうか──。



こうやってまとめてみると案外ないもので。

むしろ、こんなに丁寧に箱に詰めて送ってあげるなんて、私、なんていい人。全部捨ててやってもいいぐらいなのにね。

ダンボールを閉じて、ガムテープを傍らに置く。

この家から彼の痕跡を無くすことは大変なのではないかと思っていたけど案外そうでもなかったみたい。こういうとき、同棲してなくて良かったなと思う。


少しだけ額に掻いた汗を拭い、ふと空を見てみると憎たらしいくらいの青空で。



多分、全部が夢物語だったのだ。



もう私からは、渇いた笑いしか出てこなかった。




***




待ち合わせは△△駅東口の改札前に15時。

友達と待ち合わせをするときと同じように、5分前に到着するようには家を出てきた。

すでに待ち合わせ場所には、愛用のベースを入れているであろうギグバッグを背負ったそれらしい人物が見えた。

練習終わりなのだろうか。

石垣のような場所に腰掛けて私を待っている彼は、携帯をいじっているため私の存在にはまだ気付いていない。


するとそこに、彼と同年代くらいの女の子二人組が近付いていき彼に喋りかけていた。二人組はこちらにまで聞こえる大きな声でキャーキャーと騒いでいて、おそらく彼のファンだと見受けられる。


「あの!ベースのケンスケさんですよね?!」

「……あぁ、はい。そうッス」


控えめにペコリと頭を下げる彼。


「すごい!こんなとこで会えるなんて!この前のライブ見に行きました!これから練習なんですか?」


目をキラキラとさせながら質問する女の子達のキャピキャピ感がすごい。そりゃあ憧れの人が自分達の目の前にいたらああなっちゃうよね。私にも昔、あんな頃があったなぁ……としみじみと感じる。


「いや、今日はもう練習終わって、連れと買い物に行くんで」


あ、ちょっと困ったような笑い。内心めんどくさいとか思ってそうな顔。


んー、どうしよう。完全に出遅れたかも。


とりあえずLINEしてみようか。


『女の子に捕まっちゃったね。大丈夫?』と打ち、送信。

するとLINEに気付いたのか、女の子達に「ちょっとゴメン」と言い携帯を弄る彼。

あ、既読した。

すると周りをキョロキョロして、やっと私の存在に気付く。


「連れ来たっぽいから行くわ。あ、また今度ライブやるから良かったら来て。んじゃ」


もちろん置き土産の営業言葉は忘れずに。
さすがです先輩!

こちらに歩いて来て、「来てたんなら声掛けてくださいよ」とヒソヒソ声で言う。


「いや、無理でしょ。ていうか女の子達めっちゃこっち見てるけど。大丈夫なの」

「……さぁ?今日の夜ぐらいには掲示板に書かれてるかもですね。あの女誰?っつって」


しれっと恐ろしい言葉が聞こえたような気がしたけど聞こえないフリをしておこう。


 


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