でも、そこで少し腹が立ったのはなんでだろう。
確かに今回の一番の原因は私にある。それは自分でも認める。土下座しろって言われても全然やります。むしろ進んでやります。それを、罪悪感みたいなの感じなくていいとかチャラにしようとか──。
平気で言えちゃうんだね、今ドキの子って。
私が考えすぎなだけなのかな。
なんか、馬鹿らしくなってくるよ、本当。
断片的な記憶しかないけど……、あの時は、私の愚痴を聞いてくれて(私が一方的に喋ってただけだと思うけど)、なんかドリンクとかも作ってくれちゃったりして良い人だなぁ……って思ってた。
けど、パッと見で言っちゃったら確かにこの子ヤンチャそうだもん。金髪だし。真面目そうな雰囲気出してるかもだけど、固定の彼女とかいなさそう。仕事とかはきちんとこなすけど、プライベートになったら超パリピだぜ! 的な? 金髪だし。金髪全然関係ないけど。
……考えるの、疲れたな。もういっか、どうでもいいや。ヤっちゃったもんはしょうがないし。30歳手前でフリーになったし、好きなことやれる時間が増えたって思おう。もともと早く結婚したい願望なかったし、それこそ最終手段はお見合いだし。もう知ーらない。
「 …ねえ、この後暇?」
「は? あ、いや……。えっと、この後はちょっと用事あってそのままバイト行くんで」
「ふーん、そっか。じゃあ明日は?」
「……明日は夕方からフリーですけど、」
「なら買い物付き合ってくんない?」
「買い物っすか……?」と少し驚いてる。「そう、買い物。お金使いたい気分なの」と言えば、「はぁ……。俺でよければ」と一応承諾してくれた。
それから彼はさっと洗い物をして帰る準備をし始めた。忘れ物がないかをチェックして、壁に立て掛けてあったギターケースのようなものを担ぐ。そんな所にそんな物が置いてあったなんて全然気が付かなかった。
「なんか音楽やってるの?」
「……趣味でバンド組んでます。今からその練習なんで」
「へー。私、音楽あんま詳しくないんだけどね。パートは?」
「一応ベースです」
「……そうなんだ」
昔友達から、『絶対に付き合っちゃいけない3B』というものを聞かされたことがあるけど、その内の一つのバンドマンに当てはまったよね。しかも、バンドマンの中でも一番良くないのベースって言ってたよね。いや、付き合わないけどさ。
一応お世話になったので、家の玄関までお見送りをする。「これ俺の番号なんで」と携帯番号が書かれた紙切れを渡された。
「あ、はい。登録しておきます」
「敬語、戻ってる」
「……! 登録しておくねっ!」
「よろしくッス。それじゃあ。メシ、ご馳走様でした」
「いや、こちらこそ……。いろいろ迷惑かけてすみませんでした……」
「ははっ。今思い出すと笑えるな」
と言って少し笑った彼は、私が何か言う前に、「じゃあ、お邪魔しました。薬、ちゃんと飲んで休んでくださいね」と優しい言葉をさらりと言って帰っていった。
「〜〜っ……!バンドマンこわい!!」
少し無邪気に笑った彼を見て、一瞬でも"かわいい"と思ってしまった私は、やはりゆっくり休むことに専念しようと思った次第である。