「見っけ」

屋上の隅に座り込んだあいつの背中。つんつんと跳ねた青い髪は空の色。染めてる訳でもないのにあんな色してるなんて、あいつはやっぱ変だ。…まぁあたしも人の事言えないか。高校に入ってからばっさり切ったあたしの髪は、日に当たって光る雪の色だ。

「おい水沢」
「…何だよ、お前か。水沢言うな」
「水沢じゃん」

振り返ったこいつの口の端は切れて血が滲んでるし、目から頬にかけての所なんて赤やら紫に変色してる。うわ、グロ。

「とう」
「ってェ!おま、何す…っ」
「ヒドイ色してんね。おらおら」
「ちょ、止め、突くなっつの!」

つんつんと人差し指で痣を突くと、こいつは面白い位に反応する。これだからいじられ役になるんだ…、分かってないな。

「おま、嫌いだ…!このドS!」
「ドSじゃありませんーちょいSですー」
「いだだだだだ」

実は持ってきていたミニ救急セットを出して、消毒液を含ませたガーゼをぐりぐりと押し当てる。ちったぁこっちの気分になれ。

「ばーかばーか」
「…ばかじゃねーし」
「アホ屑ヘタレ死ね」
「止めろ精神攻撃!」

こいつの髪は目立つ。というか悪目立ちする。あたしみたいにうまく世渡りできない不器用なこいつは、全部に体当たり。売られた喧嘩は買うし、うるさい教師には真っ向から反論する。ピアスにこの髪と、見た目は不良臭いけどぶっちゃけこいつは全くもって普通のヘタレだ。

「…また何か言われたの」
「んー…、まぁ」
「で、言った訳ですか。あの恥ずかしい台詞を」
「止めろ言うなばか!」

これが俺だ、なんて何というクサい台詞か。そんな事言ったら相手はムカッと来るに決まってんのに。だからベキョバキョになるんだ馬鹿野郎。

「…こーくんがさぁ、相手締め上げてた」
「…マジでか」
「うん、絶対零度の殺人ビーム出てた。超目ぇ据わってた」
「………貸し作られた…」
「そこかよ」

べたべたと絆創膏やらガーゼを張り付けられたこいつの顔は何か間抜けだ。ちょっと笑える。

「…できたよ」
「……おう」
「痣んとこ冷やす?保冷剤もらいに行こ」
「ん」

手を差し出すと、こいつはすんなり握ってくる。ときめきとか恥じらいとか微塵もない。中学の時からこれが普通。手もごつごつしてきた。背も伸びた。背中が広くなった。ああ、でもやっぱり、

「ヘタレー」
「…暴走娘」
「あ?」
「いだだだ触んな!触んな!」

こいつはいつまで経っても、ただのヘタレなのだ。ばーか。



110515
戦うヘタレ。



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