03




「…!!」

次に気が付くと、いつの間にか私は自分の家のリビングに戻ってきていた。

どうやら机に突っ伏して寝ていたようだ。


「よう、起きたか」

「あ、シカマル」


私がシカマルの顔を確認すると同時に、シカマルは私のちょうど向かい側の椅子に座った。これで向かい合う形になる。


「ごめん。どれくらい寝てた?」

「そんなに長い時間じゃねェよ。少し疲れてんだろ?」


さっさと帰えるから、ちゃんと休んどけよ?そう言ってシカマルはやわらかく笑った。

こういう気遣いが出来る所、この人は他の男とは違うのかもな、と思った。


ん?いや、ちょっと待て…


「何でここにいるの?」


うん。今この場において一番適切な質問をしたと思う。さっきまでの和やかな雰囲気に流されて危うく気付かないところだったけど。

何でシカマルが私の家にいて、何で何食わぬ顔でそこに座ってるの?


「何でって、言っただろ?話がついたらお前ん家に行くって」

「いや、そうじゃなくてさ。私は何でアンタが勝手に人ん家に侵入してるのかって聞いてるんだけど」

「冗談だ。んな怖い顔するなって」


シカマルは可笑しそうに喉の奥でククッと笑った。何だか私の反応見て楽しんでるよねこの人…。

つーか、勝手に人様の家に上がりこんどいて何だこの態度は。そりゃ怖い顔もしたくなるよ。


「大体、玄関の鍵は閉まってたはずだけど?」

「ああ、閉まってたな。けどよ…」


そう言ってシカマルはある方を指差した。そこにはフワフワと風に揺らぐカーテン。


「あんだけ窓が開いてりゃ、誰だって入ってこれるよな」

「え。う、そ…!!」


ちょ、待…ええええ!!窓全開じゃないですか!!あれ?戸締りはいつも確認してるよね、私!!

あれは完全に‘ここからどうぞお入り下さい’って自分から言ってるようなものじゃん!!


「お前、戸締りはちゃんとしろよな」

「うん…」


今のお前は忍じゃなくて一般人なんだからよ。そう言ってシカマルは苦笑した。



「で、本題だが…」


お互いに目線をカーテンから戻す。すると、あっという間に空間には張り詰めた空気が流れ始めた。


「単刀直入に言う…。やっぱ無理だった。お前を任務から外すことは」

「…そっか」

「ただ、琴音の監視をするっつー名目で俺も任務に同伴出来ることにはなった」

「え、本当?」

「あぁ」


さっきの分身の私の言葉があったおかげか、任務の件についてはさほどショックではなかった。ある程度自分の中で覚悟を決めていたのかもしれない。

というか、むしろシカマルがついて来てくれるという事実の方が意外なくらいだ。たとえ私を監視するっていう名目であったとしてもね。

それよりも、問題なのは私が実際に任務に行ってからの話。


「…悪ィ」

「ううん!シカマルは悪くないよ」


シカマルは申し訳なさそうに、少し俯いてそう言った。

シカマルは何も悪くない。むしろここは感謝するべきだ。

数日前まであかの他人(シカマルはそうは思ってないかもしれないけど)だった私のために、わざわざ綱手様の所に行ってくれた。

シカマルが同伴するという事を納得させるのも苦労しただろう。


「こうなったら仕方ねェ。お前にもちゃんと任務について来てもらう」

「分かった」

「前にも言ったが、今里は人手不足だ。だから、どんなランクの任務がくるかはまだわかんねェ」

「…うん」

「でもな、」


シカマルは一回言葉を切り、何か覚悟を決めたかのような真剣な眼差しで私と目線を合わせる。そしてまた続けて言った。

その後の妙に説得力がある言葉を聞いて、ああ、やっぱりこの人は私が今までで出会ってきた人達とは何か違うな、と思った。



私の初任務まで、あと3日。




「何があっても、お前を危険に晒すような真似は絶対にしねェから」



―――――

シカマル君、不法侵入は立派な犯罪ですよ(笑)




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