02






暑すぎず寒すぎず、まるで春のような空間の中。


「…い」


目をつぶって寝転がっている私の顔に影がかかった。誰かが私の顔を覗き込んでいるらしい。


「…おーい」


その誰かは私に向かって声を掛けながらゆさゆさと私の肩を揺する。ったくうるさいなぁ…。


「おーいってば」


いつになっても肩を揺さぶる動作をやめようとはしない。ていうか、だんだん揺さぶるの域を越えてるよね?ガクガクいってるよこれ。


「ね、起きなよ」

「…う゛ーん」


いや、これだけガクガクと肩わしづかみにされたらもう起きるしかないよね。

でも、ここで起きるのも何か釈だからやっぱり寝たふりをすることに決めた。

あれ、前にもこんな場面あったような…


「あったようなっていうか、もう2回目だと思うけど」

「え!!何で分かったの?」

「あ、やっと起きた」

「!!」


まるで私の心を読んでいたかのような回答に思わずガバッと起き上がってしまった。が、時既に遅し。諦めて相手の顔を確認する。


「!あ、あんたは…」

「久しぶりだね、オリジナルの琴音さん」


すると私の目の前にいたのは、元々の木の葉の住人、つまり、もう一人の私、桐沢琴音だった。


「てことは、ここは夢…?」

「うーん。まぁ、厳密には夢ではないんだけどね」


説明めんどくさいからそーいうことにしとくわ。そう付け足し、もう一人の私はよっこいせとその場に腰をおろした。


「今日は何でここに?」

「さぁ?気付いたらここで突っ立ってた」

「そういうものなの?」

「そういうものだよ」


分身の私はニコニコとしながら呑気な口調でそう言った。というか、返事が適当すぎるよね?本当に大丈夫なのかなこの人。


「で、あっちでは上手くやってるの?」

「まぁね。一応オリジナルの桐沢琴音を頑張って演じてるけど」


ていうか、お母さんみたいだね。そう付け足し、また楽しそうにケラケラと笑った。


「にしても、日本って場所は本当に面白いね」

「面白い?どこが?」

「だって任務なんか無いし、授業なんか寝てるだけですぐに終わっちゃうしね」

「あ、あんたまさか…授業中居眠りしか…」

「だってあんな難しいことわかんないもん」

「…ふざけんなよオイ」


大丈夫かなこの人。という問いの答えが限りなく不安な方向に近づいた瞬間だった。

そうだよな、コイツ平気で任務をほったらかしにするような人間だもん。大丈夫なわけがない。


「そっちはどう?里の生活には慣れた?」

「慣れた?じゃないよ!こっちはアンタのせいで大変なことになってるってのに…」

「大変なこと?」


はぁ、と小さくため息を漏らしながら言うと、幾分か真面目な顔になった分身の私が聞き返してきた。


「誰かさんのせいで突然パシリにされたと思ったら、今度は突然任務復帰だって」

「あら、良かったじゃん」

「いや良くねーよ!少なくとも私はお先真っ暗だよ!私忍術なんて使えないし使ったことないもん」


大体、私は数日前まで忍なんて空想の中でしか知らない一般人だったんだから。


「で、いつから任務なの?」

「今日から3日後」

「3日か…。私からすれば十分すぎる日数だけど、一般人が忍としてのノウハウを学ぶのはほぼ不可能」

「そんなこと分かってるよ。だから今シカマルが綱手様のところに話をしに行ってくれてるの」

「何て?」

「私が任務に出なくてもいいようにって」


そう言うと、相手からはふーん、と、どこか気の無い返事が。


「何?何か文句でも?」

「いや、文句というか…」

「じゃあ何?」

「私が言うのもおかしな話だと思うけど、それはほぼ無理だよ」

「は?」

今度は私が気の抜けた返事をすると、分身の私はズズイと前に顔を寄せてきた。


「だってよーく思い出して。何でアンタが突然パシリにされたのか」

「…どういう意味?」

「アンタは私の代わりに罰を受けたわけでしょ?」

「うん」

「その罰を行った理由は私が今までに任務をサボったりしてたからで、綱手様は私がいつまた任務をサボるか警戒してる」

「…うん」

「つまり、この時点で私の信頼度は限りなくゼロに近い。だから任務に出なくても良いかなんて申し出を飲み込むわけがない!!」

「……」


私は最早呆れてため息すら出なかった。
一方、分身の私はというと、一気にまくし立てたからか胸を張って満足そうな表情をしていた。


「ね?分かった?」

「分かったけど…、何でそんなに得意げなの?そんな推理で胸を張られても全然カッコイイとか思えないから。つーか腹立つ!」


腹が立つけど、残念ながら今言っていたことはほぼ正しい。


「じゃあ私はどうしたら良い?」

「とりあえず、自分の身を少しでも自分で護れるようにならないと」

「でも3日間しかない…」

「全くやらないよりはマシでしょ」


そう言うのと、どこか離れたところで玄関のチャイムのような音が鳴るのが一緒だった。


「あ、シカマル来たね」

「え?」

「じゃ、死なないように頑張って!検討を祈る!」

「えぇぇ!!ちょ、ちょっと…!」


あっという間に分身の私の姿は消え、辺りには私以外になにもないただ静寂な空間になってしまった。






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