Novel 雨花模様


17時42分  






「今日は元気みたいだな、よしよし……♪」

 学業も仕事も終え珍しく明るい時間に帰ることもできたのでふらり立ち寄ったコンビニ。夜ふかしのお供と甘いチョコレートを手にレジへと向かいリズムよくバーコードを読み取ってもらう最中、真後ろから耳障りのいい聞き知った声が聞こえ振り返ればお疲れさんといつもの笑顔で軽く手を振る幼馴染の姿がそこにあった。生徒会長となった今では以前にも増して忙しくあれよこれよと皆に頼られる為あかるい時間、ましてや学院以外の場所に居るはずもない彼が此方に近づく。驚きと嬉しさの混じった現しようもない表情を返せば次いで出る言葉はひとつだけ。

「……なんでいるの?」
「なんでって……俺も小腹が空いたからちょっとな~」

 今しがた購入したばかりのホットスナックを片手に軽く首を傾けている此方を見ながらにこにこと、穴が開くほどに見られている。緩そうな空気とは裏腹に何処か鋭い視線は俺の視線を逸らすのに十分な理由があった。
 別に待てと言われたわけではないけれど出入り口付近で幼馴染の会計を待つ。終えてすぐ隣まで駆け寄り同時に退店。日頃の忙しさもありただ単に日差しに弱い俺の様子を見ていただけだろうと、そのままさようならだと思っているも自身の自転車の籠に購入したばかりのものをいれその場でホットスナックを堪能する間もそばで待ってくれている彼に疑問符がまた増えた。今日は大事な打ち合わせがあるって言わなかったっけ。生徒会の仕事も終わりが見えないほどあるだろうに。
 ホットスナックのゴミを捨て予め自転車に刺していた鍵を半回転させればガチャンと金属音が鳴り自転車を動かす準備が完了する。乗るのではなく押して帰ろうとハンドル握ればひやりと手のひらに冷を感じ、籠のビニール袋と耳を掠める風の音も相まって寒さをより高めているようで首に巻き付けたマフラーにそっと顔を寄せてはそれに気づいたのか後ろからははっ、と笑い声。

「流石の凛月もこの寒さには負けるか」
「むぅ、そういうま~くんだって鼻も耳も真っ赤。……ていうか俺、このまま寮に帰るんだけど付いてきていいの? まさかま~くん、学院での仕事を持ち帰ってるんじゃないよねぇ。そんなこと俺が許さないんだけど」
「大丈夫だって、今日の仕事は終わってんの。本日の生徒会長衣更真緒さんは終了。つって……まあお前が校門から出るのを見て急いで終わらせたっつうか、残りは明日の俺に託したっつうか、? 姫宮もそれとなく手伝ってくれてるし……」

 ほんの少し口ごもり気味に久々に一緒に帰りたいじゃん、なんて照れ臭そうに頬掻きながら眉尻下げた笑み向けられたら嬉しいでしょ……ま~くんの為を思って我慢してた俺が馬鹿みたい。そう思うのも束の間、ぴゅうと勢いのいい風で靡く赤髪が目に入ったのか痛がりながら目元こする姿に思わず笑みが溢れてしまった。

「そういうところがま~くんだよねぇ……あはは♪」

 いつも頑張っている会長さまを労い後ろに乗せてあげると提案するも運転が怖いと理由付けては拒否された。そこは交通ルールとかじゃないんだ。そもそも後ろに乗せながら俺は引いて歩くつもりだったけど。
 少々距離のある寮まで他愛もない話で笑い合い昔を懐かしみながらもこの時間を楽しみ歩を進める。今だけはアイドルではなく幼少期の、ただの『朔間凛月』『衣更真緒』でいられる気がしてどこかホッとする俺もいたり。今度がいつ来るかもわからない幼馴染特有の空気を噛み締めて進める脚は何処か弾んでいるようにも感じた。


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