「鈍感コンビだからな、仕方ねーよ」

達観したような言い方をした神崎先輩から貰ったヨーグルッチを飲みながらの屋上で空を見上げた。神崎先輩がヨーグルッチをくれるなんて、よっぽどひどい顔してたのかなんて思ったけどよく見れば賞味期限昨日のだ。お腹壊したらあのチェーンを走り去るトラックに括り付けてやる。

「あっ、いた!」
「……」
「おい!なまえ!探したんだからな〜〜」

鈍感コンビの片割れがへらへらしながらやってきた。鈍感1号である男鹿より少しはましだが、それでもこの能天気な馬鹿に付き合っていると精神がすり減っていくのを実感する。そうなると1号に悩まされている葵ちゃんなんてもっと大変だろう。私はあそこまでわかりやすくないから、そこまで打撃があるわけじゃないけど。

「……なに」
「あれ?もしかして怒ってる?」

はははーと笑う古市に向かってヨーグルッチを投げつけたら額に直撃した。

「いて!!つーか中身入ってんじゃん!」
「死ね」
「なんで!!あとべとべとになってんだけど!」
「いいから死ね」
「なんかさっきも怒ってたけどどーしたんだよ」

乳酸菌で死んでほしい。こいつはなんなんだ。もしかして怒ってる?とかよく言えたもんだ。だから鈍感なんだけど。とにかく一人にしてほしいのになんでわざわざ追ってくるのだろうか。本当に不思議でならない。ただ、いつもだったらハイハイと流していたのにも関わらず今日だけはなんだかいらっとしてしまった。古市の口癖「彼女欲しい〜〜」をなぜか今日は流すことができなかった。

「とにかくほっといて。さっさと帰りなさいよ」
「そうはいかねーよ」
「なんで」
「オンナノコを独りにしておくなんて、」
「キモッ」
「せめて最後まで言わせて!」
「きっしょ」
「意味一緒だから」

漫画みたいに頭叩いたら記憶が消えればいいのに。この男を好きだという事実を消し去りたい。でも恋ってそういうものじゃないってろくに恋できてない葵ちゃんに言われたっけ。

「で、何怒ってんの」

図々しくも私の横に座った古市がなぜかあきれたように私に問いかけた。その声があんまりに優しいものだから、なぜか泣きそうになって膝に顔をうずめながら口を開いた。

「あんたが…」
「んー」
「『彼女欲しい』ってうざいから」
「は!?そんなことかよ!」
「私ね!!そういう!!『彼女欲しい』って一番嫌いなの!!誰かと付き合いたいとかじゃないじゃん!『彼女』って立場ならだれでもいいってことでしょ!」
「誰でも言い訳じゃねーけどさ〜」
「でもあんたならメスゴリラくらいまでならギリいけそうじゃない。人類だったらだれでもOKじゃん!」
「お前の中での俺ってそんなイメージなの!?」
「クラスの女子がみんな言ってた」
「いやちょっと死にたいんだけど」
「死ね」
「追い打ちかけんな」

私と一緒に古市まで暗くなっている。ていうかメスゴリラでもいけそうと思われているやつのこと好きな私は相当やばいんじゃないか。

「でもまぁ理由わかったからいいか」
「……そうね、それでそのキモイ口を謹んでくれればみんな幸せだと思う」

これじゃあ葵ちゃんと同じだ。やっぱり素直になんてなれない。友達として傍にいることの穏やかさに慣れてしまった今となっては「私、あなたのこと好きなんだからそんなこと言わないで」とか「ここにいるじゃん」とか軽はずみなことは言えなくなってしまった。メスゴリラですらいけそうといわれる古市にとって私がメスゴリラ以上なのか以下なのかわからず、自分の気持ちを大切にするよりも恥ずかしさを守る方を選んでしまう。古市が立ち上がって屋上の扉へと歩き出す。あー行っちゃう。と思ったら振り向いた。

「じゃーなんて言えば言いわけ」
「だから、黙っといてって、」
「お前が欲しい」

真っ直ぐな瞳が私を見ていた。意味を理解するまでに時間がかかるわけもなく、顔がかーっと熱くなるのがわかった。

「な、な、なに言ってんの!?!?」
「だからー、お前が、」
「黙って!!」
「……こーなるじゃん、お前」
「は!?」
「ストレートに言ったらそーなるだろ」
「え、いや、待って」
「人がずーっと遠回しに言ってんだから気付けよな、鈍感」

私がずっと言いたかった言葉を目の前の古市に言われている。飄々と言っている素振りをしているが、どうやらあの古市でも照れるらしく、耳が赤い。

「嬉しくねーの?」
「は、はぁ?!う、うれしくない…」
「えっ」
「ことない…」

急に顔が見れなくなった。俯いて古市のつま先を見つめる。この展開は予想してなかった。何かを言おうにも言葉が出なくて代わりに涙が出そうになる。

「帰ろーぜ」

古市の手が私の腕を掴んだ。立たされてついに目があってしまう。古市もどうやらてんぱっているようだ。

「行くぞ、メスゴリラ!」
「殺すぞ」
「なんで!」
「なんでだと思う?」
「ごめん嘘だって、お前がそんな顔するからどーすりゃいいかわかんねーんだよ」

困った顔する古市の気持ちはなんとなくわかる。私だってどうすればいいかわからない。握られた手首を振りほどいて、古市の小指を掴んだ。

「……帰ろ」
「お、おう!!」

くるっと前を向いた古市がさっきよりも耳を真っ赤にして「いっ、今のかなりかわいい!!」と大声で叫ぶものだから、思わずその後頭部を叩きたくなったけど、出そうになった手を引っ込めて、小指だけ握っていた手を離し、古市の手を握った。

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