朝5時頃に目覚ましが鳴っていたのを意識の遠くに聞いた。なんでこんな時間に…と少しいらっとしながらも再度夢の中に入った。

「…おい、起きろよ」
「…んー…」
「おい!」
「…起きるよぉ…」

もぞもぞと布団の中に入ったら、次の瞬間布団をはぎ取られた。こんな無慈悲な行いをよく平然とできるものだ。外の明かりが眩しくて目を瞑ったまま、枕を探す。顔を覆おうとしたのに、手が触れた瞬間取り上げられた。

「あぁ〜…」
「てめぇもう何時だと思ってんだ」
「え〜…9時くらい?眩しいよ…」
「10時だ!!」

まったく。何をカリカリしているのか。いつものことではあるが、カリカリは猫に上げる餌だけにしてほしい。同居人…というか同棲相手、というか恋人である蘭丸が私の腕を掴み起き上らせる。この動き、恋人にする動きじゃない。酔っ払いを起こす警官だ。

「もっと優しくしてよ〜」
「うるせぇ。さっさと目を開けろ」

ぽかっと頭を叩かれる。この扱いはずっと変わらない。目をこすりにこすって目を開ける。もうすっかり着替えている蘭丸の服が目に入った。何やらいつもとテイストが違う。

「…スーツ?」
「あ?」
「……えっ!?!?」

こすった目をさっきよりもしっかりこすった。私は幻覚を見ている可能性が大いにある。スーツは以前にも2度ほど見たことがあるものだった。それに私を起こす声も蘭丸だった。だがしかし。

「ど、どちらさまでしょうか…」
「……てめぇ。殺されてぇのかよ」

私の目の前には黒髪でかなりおとなしい髪型の人がいる。メンズノンノでも読んだのだろうか。そんな髪型だ。あるはずの銀髪猫毛はそこにはいない。

「…なんかしたの?暴行事件ついに起こした?」
「起こすがボケ」
「じゃあなんで?」
「……いいからさっさと準備しろ」
「なんの??」
「出かける準備だよ!!」
「どこに!!」
「うっせぇな、なんでもいいからさっさとしろ」

手に持った枕を私の顔面に投げつけてきた。うん、間違いない蘭丸くんです。どこかに出かけるのだろうか。謝罪会見でないならなんなんだ。いつもよりもフォーマルにした方がいいのかもと蘭丸の出で立ちを見て思う。この前買った紺のワンピースをクローゼットから取り出した。

「ねぇ、今日5時に目覚ましかけてた?」
「…かけてた」
「……それのため?」
「…さっさと着替えねぇとお前の変顔画像をネットで拡散する」
「それだけは!!着替えるから!!」

慌ててワンピースに袖を通す。背中のジッパーに手間取っていると蘭丸が近づいてきてため息をつきながら上げてくれる。ついでに中に入ってしまっている髪の毛を出し、ジュエリーボックスから去年のクリスマスに蘭丸がくれたゴールドのネックレスを手に取ってつけてくれた。

「あ、ありがと…」
「…おう」
「……化粧してくる」

ふと流れる照れくさい空気に耐えれなくなってすぐに洗面台に向かった。いつもより少し丁寧に化粧をする。ゴミ箱の中に黒彩を見つけて口元が緩んだ。ついでに少しだけ毛先も巻いてみた。

「おまたせ!じゃーん!どう??」
「……かわいい」
「…え!?!?」
「あ?!聞こえてんだろ!」
「もっかい!」
「言わねぇよ」
「アンコール!アンコール!」
「一生やっとけ」

久しぶりにデレたと思ったのに…。それにしても今日は変な日だ。時間を気にする蘭丸に手を引かれ家を出る。蘭丸の片手には先月納車された車のキー。割と遠出の予定なのかな。やっぱり目の前にある黒髪に違和感を覚える。私に対して言葉は普段乱暴な癖に、助手席のドアを開けてくれてエスコートはしてくれる。そういう些細な優しさに私がいちいちドキドキしていること、知っているのかなメンズノンノくん。

「ねーどこ行くの、今日」

シートベルトを締めていると蘭丸が車に乗ってくる。エンジンをつけながら携帯を取り出すと画面を見ながらカーナビに住所を入力し始めた。入力している住所はなんというか、ものすごく見覚えがある。

「え、ちょっと、なんでその住所…」
「ぎゃーぎゃー騒ぐなやかましい」

案内を開始します、というカーナビの声が車内に響く。

「…今日はお前ん家…つーか実家か、に行く」
「なんで!」
「…挨拶」

動き出した車の中で蘭丸の横顔を見つめていると、座席から体を離している私の頭を蘭丸がぐいっと押した。ぽすっと背中を背もたれに預けることになったが、この旅路をこのまま蘭丸に預けるわけにはいかない。

「挨拶ってなんの!」
「……付き合ってるっつー挨拶」
「なっ、なんで急に!」
「……急じゃねぇよ」

赤信号でブレーキをゆっくりかけながら蘭丸が答える。

「…なんでも物事には順序があるだろ」
「順序…順序!?」
「あー!もう!!いちいちうるせぇ!!付き合い始めたのはいつだ!」
「えっと…2年前…」
「同棲は!」
「先月」
「…さすがに、何も挨拶ナシっつーのはねぇだろ」
「ま、まぁ…」
「…先々のこともあるだろ」
「…先々?」

私がそう尋ねると突然唇をふさがれた。赤信号が青信号に変わるタイミングで離れていく蘭丸のせいで、心臓がうるさい。

「それ以上、喋んな」
「……ハイ」

どうやら、蘭丸はどういう訳か私の母と直接連絡を取っていたようで、住所も今日の日程も秘密裏に進めていたのだという。だから、こんな髪型なのか。ちょっとでも、ウチの家族に良く思われたくてなのか。

「蘭丸」
「あ?」
「……髪型変だよ」
「あ!?」
「……ウソ、ごめん、照れくさいだけ」
「……お前何泣いてんだよ」
「うれし泣き」

私がそう答えると蘭丸はこちらを見ずに横顔で笑った。やっぱり、変な髪型だ。

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