終電で帰ってきた金曜の夜、誰も見ていないのをいいことに顎が外れそうなほど遠慮なくあくびをした。家のドアを開けた所で、珍しく同居人が今日は帰っていることに気付いた。男のくせにぴしっと綺麗に並べられた革靴が玄関の明かりに照らされてる。帰ってくるのは何週間ぶりだろうなぁとふと記憶を辿る。ベッドで爆睡しているんだろう、部屋の中は真っ暗だ。

「りゅーうーやく〜〜ん」

返事がないことはわかっている。この男は本当にどんなことがあっても起きない。それでも子供のように彼の名前を呼んだ。ハイヒールを脱ぎ散らかして鞄を玄関に無造作に置いた。ストッキングを脱いで、ジャケットと一緒に床に放り投げた。真っ暗なリビングの電気をつけるとダイニングテーブルの上に食べ終わったカップラーメンが置きっぱなしになっている。一応アイドルで今は社長の片腕だというのに寂しい食事だ。ピアス、ネックレス、時計を外してその横に置いた。電気をつけたまま寝室のドアを開けると、久しぶりの寝顔。

同棲を始めたころに買ったダブルベッドの上で、龍也はぐっすり眠っていた。せっかく大きいベッドを独り占めしてるというのに右側に寄って眠っている。知らない間に私が右側、龍也は左側という場所が決まっていたのに、一人で寝ている時は決まって私が寝ている右側で寝る龍也になんだか愛しさがこみあげてくる。緩む口元が自分でもわかった。いつもは龍也が寝ている左側にごろんと寝転がる。

「龍也〜〜」

大きな背中に向かってそういいながら抱き付く。ただ、この男、本当に起きない。地震があろうが雷が鳴ろうが、火災報知器だって起こせない。それが私であればなおさらだ。トイレでもない限り起きないものだから、少し寂しくも思う。背中にぺたりと顔を押し付けながら一緒に寝れるだけ今日はいいか、と思っているとぐるんと目の前の体が回転した。

「え」
「……なまえ……」

伸びてきた腕が私のことを強い力で抱きしめる。名前を呼ばれて耳元が熱い。その胸の中で押しつぶされそうになりながら、なんとか上を向いて龍也の顔を見る。

「龍也??起こしちゃった?」
「………」

すーすーと寝息が返ってくる。どうやら起きたという訳ではないようだ。無意識で、私のことを察して抱き付いてきている。

めちゃくちゃ、嬉しいかもしれない。

あまりの嬉しさにぎゅーっと抱き付いて私も夢の世界へと旅立った。寂しいけど、もっとかまってほしいけど、こんなのもたまにはいいかもしれない。
翌朝「何もかも放りっぱなしにするな!!片付けろ!!」と怒鳴られて起きるのはまた別の話だ。

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