1ヶ月のうち、全蔵がこの家にいるのは何日間ほどだろうか。先月数えてみたらたった3日しかなかった。ふらふらしているのは出会いの時から変わらないし、同棲している今も同じだ。仕事に関してもある程度は理解しているつもりだった。恋人として普段会えないということと、一緒に住んでいるのに会えないという寂しさはまた少し違う。長年付き合ってたカップルが結婚したと思ったら数年経たないうちにすれ違いで離婚、というのは今ならなんとなく理解できる。待つというのは辛いものだ。そんな中、私が今機嫌が良いのには理由がある。

「おい、箸」
「んー?はーい、どーぞ」
「なんでそんな機嫌いいんだよ、キモ」

いつもなら自分でとれば?とか言うのに、とぶつぶつ言いながら全蔵は箸を受け取った。本日、病院から帰ってきた全蔵を見てからというもの、にやにやが止まらない。病院帰りは普通心配するものだが、今日ばかりは嬉しくならざるを得なかった。いつも二人分作っても翌日の自分の昼ごはんとして消えゆく食事が今日はぱくぱくと食べてもらうべき人によって消えていく。思わず予定より1品増やしてしまった。

「…何見てんだよ」
「んー?別に??」
「……つーかお前はなんで食わねェの」
「後で食べる」

だって、こんな光景久々なのだから今後のエネルギーに変えるためにも目に焼き付けておきたい。そんな乙女心をこの男は理解していないのだ。いや、できるわけないか。にこにこしながら全蔵を見つめているとお茶碗と箸を置かれた。怪訝そうにクンクンとおかずのにおいを嗅いでいる。

「え、何いきなり」
「……お前この中に毒とか入れてねーよな」
「は?!何?!失礼なんですけど!」

カチンときて全蔵の足を思わず蹴った。蹴る瞬間にやば、と思ったものの時既に遅し。病院で「捻挫」と判断された箇所に直撃してしまい、彼は悶絶することとなってしまった。本当に申し訳けない。

「てめぇ……」
「ご、ごめ〜ん」

ぷるぷると震える肩を見ながらそっとお尻で後ずさる。私の頭を叩こうとした全蔵の手は見事宙を切った。

「わざとじゃないから!」
「当たり前だろうが!…お前なんなんだよ今日。心配もしねェでニヤニヤしやがって」
「いや〜…それは…」
「……もしかして俺に保険金でもかけてる?」
「……喧嘩売ってる?」
「あっ絶対蹴んなよ!あと売ってるのはお前だろ!」
「やだ、蹴る」
「やめろバカ」

足を手で掴まれた。仕方がないのでそのままごろんと後ろに倒れて床に寝転がる。

「だぁって!」
「だってじゃねーよ」
「……久しぶりに一緒だから嬉しいんじゃん…」
「……え」
「…悪い?!」
「嬉しいって…俺らもう付き合ってどんだけ経ってると、」
「そういう問題じゃないんだって!バーカ!!」

足を掴んでいる手を振りほどいて、立ち上がって座布団を全蔵の顔に投げつけてからベッドへ直行した。結局いつだって嬉しいのは私だけなんだ。

「痛ェなコラ」

布団に抱き付いてすねる私の横に全蔵が座り、頭にチョップをかまされた。

「足首取れろバーカ」
「拗ねんなよ」

と、いいつつ、こういう時は構ってくれるからできる限り拗ねてやろうかななんて思ったりもする。確かに全蔵の言う通りで、今更嬉しいもクソもないのかもしれないが、それでも1週間くらいはのんびり一緒にいれることは割と本当に嬉しいのだ。ウソでも「俺も嬉しいわ」とか言えばいいものを、そんな気遣いができるはずもないこの男に期待するだけ無駄なことを忘れていた。いつの間にかよしよしと私の頭を撫でる手は優しく、つい甘えたくなる。

「…ビョーインからは全治2週間って言われてる」
「ふうん」
「で、まぁぶっちゃけ1週間くらいで動ける」
「知ってるー」
「でも、上には2週間としか伝えてねーから、どっか行くか」
「……えっ」
「だから、どっかいくか」
「…うん」

ぐるんと体制を変えて全蔵の腰に抱き付いたら、足に当たってんだよ!!とチョップされた。

「うん、わざと!!」
「やめろ!」

寂しいことの方がもちろん多いし、私のわがままで何かが叶うことは少ない。いつも全蔵基準である中で、こういう時間が一番幸せかもしれないと私の頬を引っ張る手を掴みながら思った。
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -