「さぼり?」
「え?」

煙をぶわっと空に向かってふかした俺に彼女は呆れたような顔で言った。甲板の上では週に一度の洗濯大会が繰り広げられている。それぞれにああしろこうしろと指示したあと、泡まみれになってほぼ遊び感覚でやっているであろう野郎どもを俺は高見の見物でいた。そしてその横にひょっこり現れた彼女にサボリの疑いをかけられていた。

「まさか」

と言いつつも煙草を即消した。その様子を見て彼女はくすくすと笑いだす。どうやらからかいに来ただけだったようだ。

「嘘、冗談だって。そんな証拠隠滅みたいに煙草消さなくても」
「別にそういうんじゃねぇけどさ」

体を少し動かして屈むようにして挨拶みたいに彼女にキスをする。離れた後、目の前にある彼女の顔はほんのり赤く染まっていて、その照れをごまかすように泳いでいた視線は俺の手元にある煙草で落ち着いた。

「…やめないの?煙草。体に悪いよ」
「うん、やめない」

即答!?と笑う彼女の目の前でまた煙草に火をつける。不満げに眉間に少しだけ皺が寄った。ぎゃーぎゃーと騒いでいるルフィたちを視界の下に確認しながらも、正直もう洗濯のことはどうでもよくなっていた。彼女が何度も勧める禁煙を俺は毎回一蹴している。

「肺真っ黒になってるよ〜?」
「そーなのかねぇ、見たことねぇからわかんねぇよ」
「なんでやめないの?」
「なんでって、まぁ、依存症だからね」

ふぅん…、という興味なさそうな返事に拍子抜けする。このやり取りは一体何回目だろう。あ、チョッパーこけた、とへらへら笑う彼女のマイペースにももう慣れた。煙草がやめれない理由の大きな原因はニコチンの中毒性にあると思うのだが、それ一つが理由ではない。むしろ大きい理由は別にある気がする。

「…私も下混ざってこよっ」
「…ハナコちゃん!」
「え?何?」

彼女の腕を慌てて握る。こういうところが、原因なのだ。ふらふらっとどこかに行ってしまう。考え過ぎなのはわかっているのにいつか俺の目の前からも消えてしまうのではないかと勘繰ってしまう。誰かに取られてしまうとかそんな考えばかりだ。余裕のない自分にイライラして、みんなと笑ってる彼女を見て寂しくなって気がついたら煙草の本数が増えているという具合である。

「俺に煙草やめさせたいならさ、ちゃんと見ててよ」
「え?」
「ちゃんと、俺見てて…っていうか目ぇ離さないで」
「え?いつも一緒にいるじゃん」
「いるけどさ…もっと、ちゃんとっていうか…」
「…どうしたの?」

真っ直ぐな目に見つめられると何も言えなくなって俺は手をゆっくりと離した。彼女は口元を緩めて「変なの」と笑うと、背伸びをして触れるだけのキスをした。そうしてそのまま甲板に降りて行く背中をもう一度捕まえれるほど強引な男ではない。ただただ見送りながら片手にある火のついている煙草を吸おうか吸わないか迷って消す。何回しても熱を持つ唇に残る感触を消したくなかった。俺だけ見てろとか、ふらふらすんなとか言えたらいいが、実際問題何もないのにそういう台詞を吐くことは躊躇われた。

「情けねぇ…」

煙のかわりに吐き出した溜息の方がよっぽど体に悪そうだった。
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