4年という月日は様々なものを変えて行った。ただの4年の月日だけではなく、そこに何らかの事象が絡めば変化は加速する。ソレスタルビーイング、ガンダムが現れてからの4年は特にそうだったのではないだろうか。

「君は変わらないな」
「そういうグラハムもね」

彼女が出してくれる紅茶は以前と何も変わっていなかった。カップの横に添えてある2個の角砂糖も、小さい陶器のティースプーンも、湯気がうっすらしか出ないぬるい温度も。薄い湯気越しに微笑む表情も、私に向ける視線も一緒だ。彼女に会いに来たのは正解だった。どうしようもないくらいの安心感に包まれる。

「何この趣味の悪い仮面、これはないよ」
「趣味が悪いとは聞き捨てならんな」
「自覚ないなら相当問題あるわよ、これ」

最近人前ではほとんど外していなかった仮面は彼女の手の内にある。不気味なものでも触るような手つきに少しだけ笑みが零れた。私を知る者は皆私がガンダムの出現で変わっただとか、4年の間に何があった、などと好奇の目を向けてきたが彼女だけは何も言わず、それどころか4年も姿を見せなかったくせに何も変わってないのね、とむしろ怒るほどの勢いだった。

「…皆、変わってしまった」
「わたし、ビリーがアロウズに転属するとは思わなかった」
「…私もだ」

少しだけ視線を落とした彼女と同じく視線を落とす。カタギリがアロウズという非人道的なものに力を貸すようになるとは思いもしなかった。4年という月日はそんなにも人を変えてしまうものなのか。彼自身に何があったか詳しくは知らないが、この4年の間に何かがあったのは確かなのだ。

「私だって変わったのに」
「そうだな、確かに君はさらに美しくなった」
「はーぁ、そういうのはいいってば」
「そういうところは本当に変わらないな」

うるさいなぁ、と不機嫌になる彼女がひどく愛おしく思えた。何も変わらない、4年前と同じまるであの頃に戻ったような感覚に浸る。今までのことは長い夢だったのではないのかと思えるほどに今を忘れることができた。ティーカップを掴もうとする彼女の手をそっと握って、そしてその違和感にすぐに手を離した。びくっと震えた彼女の目は動揺の色を隠せていない。揺れる彼女の瞳と同じくらい自分の手が震えていることに気付いた。

「…グラハムって昔から鈍感だったよね」
「…髪だとか服装には一応毎回チェックを入れていたつもりだったんだが」
「そうだね、いつも褒めてくれたもんね」
「…」
「でも、アクセサリーとかには何も気付いてくれなかった」

湿っぽくなる彼女の声に先ほど彼女の手を掴んだ手をぎゅっと握りしめた。触れたそれの感覚を忘れるようにと。それでもそっと違和感を覚えた場所に視線を移してしまう正直すぎる自分の瞳を呪った。現実を、網膜に焼き付ける。

「来月、結婚するの」

ついに下を向いてしまった彼女の左手の薬指にはシルバーリングが輝いていた。ごめんね、と謝る声が震えてついに彼女は泣きだした。彼女の家を訪れて、すぐに抱きしめた時、すぐに時間を埋めるようなキスをした時何かが違ったことに本当は気付いていた。ただ、目を瞑って見ようとしなかっただけなのだ。彼女だけは、と信じてそう疑わなかった。変わらないままそこにいてくれると。いや、実際彼女は一つも変わっていなかった。変わったのはその横に立つ男だ。

「おめでとう」
「グラハム、わたしは、」
「すまなかった。…幸せになってくれ」

彼女が言い出しそうなことなんてすぐに想像がついた。それを聞けば私は4年前へと彼女と戻ることができるだろう。ぬるくて優しい味のする紅茶を一気に飲み干すと、彼女が趣味が悪いと言って笑った仮面を付けて彼女の家を後にした。

世界に取り残されるのは私独りで十分だ。
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