食器を引っ張りだしたり肉をトレーの上に並べたりしているとお風呂上りの二人がキッチンへとやってきた。ぺたぺたと裸足で走ってきて私の足に抱きついてきたロヴィーノに笑みがこぼれた。

「のどかわいた!!」

あとから髪の毛をバスタオルで拭きながらやってきたアントーニョも同じことを口にする。冷蔵庫を開けてオレンジジュースを取り出した。

「あ、そーだ、ゼリーあるけどロヴィ食べる?」
「食う!!」
「えーご飯の前やでぇ〜?」
「私も食べたもん、おいしいかったよ?はい、どーぞ」
「…ちょいちょい!!ハナコあかんて!!」
「え?いいじゃん、ねぇ〜ロヴィ」
「そーだぞうるせぇ!」
「ちゃうって!それカブトムシのやつやん!」

きょとんとしている私の手にある一口ゼリーをアントーニョが奪う。冷蔵庫の元ある場所にそれをしまったアントーニョは未だに突っ立っている私を見て怪訝そうな顔をしたあとハッとした表情で私が考えないようにしていたことを口にした。

「も、もしかしてさぁ…食べたん?」
「えっ」
「いやだから、このゼリー…」
「……タベマシタ」

両手で顔を覆って小さな声でそう答えた。流れる沈黙に耐えれなくなって顔を上げるとアントーニョと目が合う。その瞬間あまりのアホらしさにプッと吹き出した。それを合図にしてアントーニョも声を上げて笑いだす。何がそんなに面白いのかわからないがお互い何故かツボに入ってしまい、アントーニョは冷蔵庫、私はシンクに凭れかかって体を支えなければならないほど笑い転げていた。あまりに笑いすぎてうっすら浮かぶ涙を拭きながらもまだ笑いは止まらない。そんな2人分の笑い声に混じって焦ったような声がする。

「お、おい!」
「ん?ロヴィーノなぁに?あーお腹痛い…」
「いやそれカブトムシ用の食うたからやろ?」
「違うもん!」

そんなやり取りをしている私とアントーニョをロヴィーノは黙って見上げていたが、アントーニョの発言に顔を真っ青にして私の顔をじっと見つめてきた。

「ほ、ほんとにくったのかよ」
「え?…まぁ…ウン」
「なんでちょっと照れとんねん!」
「うるさいなぁ〜」

へらへらと相変わらず笑い声を上げている私とアントーニョ。それをかき消すように突然ロヴィーノが大声で泣き始めた。突然の事態に口をポカンと開けて、私たちは1mmも動かないでロヴィーノを見つめた。その後二人で顔を見合わせたが答えが出てくる訳もなく二人してしゃがみこんで泣き叫ぶ彼に視線を合わせた。

「ロ、ロヴィーノ?どうしたの?」
「どないしたん急に…そんなにゼリー食いたかったんか?」
「ばっ、ばかやろーっ!!うわあああ!!」

ロヴィーノは泣きながら私に抱きついてくる。その背中を戸惑いながらもぽんぽんと叩いてあやした。ロヴィーノの頭越しにアントーニョと顔を見合わせる。私の服をぎゅっと掴むロヴィーノの手は頑なだった。

「ハナコがっ、ハナコがカブトムシになるっ!うわあああ!」
「えっ?!ど、どういう…」
「どないしてんロヴィ、ハナコはハナコやで?」
「だって、だって、ゼリー…うわああ!」

ようやく二人とも合点がいった。どうやらロヴィーノは私がカブトムシ用のゼリーを食べたから私がカブトムシになってしまうとでも思っているらしい。アントーニョはロヴィーノにわからないように向こうを向いて腕で口を押さえて笑いを堪えている。

「ロヴィーノ、大丈夫だよ?あれはカブトムシ用のゼリーで、カブトムシになるゼリーじゃないから」
「そっ、そんなのっ、わかんねーだろ!!おまえカブトムシくわしくないのにぃぃぃ〜」
「あーうん…そりゃそうだけど…えっと…」

なんと言ってやればいいのか言葉が見つからない。アントーニョは協力する気配もなく一人で声も出さずに笑っているし、ロヴィーノは泣きやまないし、私は私で素直に「かわいい〜!」と言えないもどかしさを抱えたまま戸惑うしかなかった。

「ロヴィ、大丈夫だから泣きやんで〜、ね?バーベキューしよ?」
「ほ、ほんとにっ、大丈夫なんだなっ?」
「ほんと」

そう言いながらロヴィーノの涙を拭ってやる。目を真っ直ぐ見て言ってやったのが効果ありだったのか、ロヴィーノはようやく泣きやんでくれた。外にもう用意してあるバーベキューセットの所にお皿を持って行くように言うとこくんと頷いてそろそろと歩いて行った。キッチンに残るのは私と未だに笑っているアントーニョ。しゃがんだままアントーニョに近付くと笑いすぎて涙が滲む瞳とかち合った。

「アントーニョ〜」
「ご、ごめんて…だっておもろいんやもん、ロヴィーノ」
「いつまで笑ってんの」

こつんとその額をつつく。まだ濡れたままの髪の毛の先から水が一滴落ちた。

「まぁカブトムシになってもずーっと一緒におったるって」
「結構ですー」
「毎日樹液あげるでぇ〜?」

ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながらそう言ったアントーニョのせいでさっと頬に熱が走った。立ち上がってぺしっとその頭を叩く。

「何言ってんの!!」
「え?別に今のやらしい意味ちゃうで〜?何想像したん?」
「……うるさい!」

同じように立ちあがって私に後ろから抱きついてくるアントーニョの顔をぐいっと押す。嬉しそうに笑う声が耳元でする。そりゃああんな表情であんな言い方したらそう聞こえなくもない。全部アントーニョが悪い。

「ハナコ!」
「あ、ロヴィーノお皿ありがと」

お皿を運ぶという任務を終えたロヴィーノは、私にベタベタくっついているアントーニョを一瞥したあと私を真っ直ぐな目で見上げて来た。どうしたの?という意味を込めて少し首を傾げると晴れ晴れとした顔で彼は口を開いた。

「もし!ハナコがカブトムシになってもおれがメンドーみてやるからな!!」
「……」
「ぜったいにすてねーしそれにとくべつにおれのへやにいれてやる!」
「ロヴィーノ…」
「何言うとん!ハナコはカブトムシになってもお前にはやらんからな!」
「うっせえ!おまえになんかメンドーみれるか!」
「冷蔵庫の中に手ぇも届かへんチビに言われたないわ」
「すぐのびる!!」
「それにハナコは樹液毎日欲しいんやもんなぁ?」

アントーニョが私にだけ聞こえるように耳元でそう言ってきた。またカッと顔が熱くなり、伏せてあったまな板でアントーニョの顔を殴ったのだった。とりあえずもし私が明日、いや一時間後にカブトムシになろうとこの二人はずっと愛してくれるんだなぁと思いながらロヴィーノを抱き上げた。
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