広い家に一人取り残されるといつも以上に広く感じる。その広々とした状態に手足を伸ばしくつろいでいられるのはせいぜい1時間が限界でそれ以上になると寂しくなる。今日も今日とて私は一人家に取り残されていた。気を紛らわそうと家事をしようにも洗い物はさっき終わったし洗濯は朝干し終わっている。掃除だって終わったし夕ご飯の下ごしらえも終わってしまった。つまりすることが全くないのだ。仕方なく何度も読み返した雑誌を広げて溜息をついた。

アントーニョとロヴィーノは朝から張り切って虫取り網とカゴを持って家を出て行った。虫よけスプレーを大量に噴射してやると二人して顔を歪めていたのが随分前のことのように感じる。お揃いの麦わら帽子をそれぞれの頭に乗っけてやると待ちきれないという表情で「いってきます!!」と言って私に背中を向けて飛び出して行った。のも束の間ドアは再びすぐに開き、ロヴィーノがかけてきて「ぴんぽんなってもでちゃだめだぞ!!きよつけろよ!!」と言った後ぎゅっと抱きついてきた。そのかわいさに頬が緩み過ぎて流れ落ちるかと思った。それについて来たであろうアントーニョが遅れて戻って来て苦笑しながら「気"を"つけろな」と訂正する。そしてロヴィーノを抱き上げて私の両頬に一回ずつキスを落とすと「ええ子にしとるんやで〜」と笑って今度こそ虫取りに出かけていった。

虫取りでなければ一緒に出かけたのに、森の中に入って虫取りだなんて考えただけでぞっとする。理由がわからないほどに大量の足を持った虫さんたちを受け入れれるほどの度量は備わってない。つい1月前にロヴィーノが捕まえてきて虫カゴで大人しく飼われているカブトムシですら受け入れれないのだ。この広い家で一人ぼっちで寂しくても仲間意識が全くもって芽生えないほどに。持って帰って来た時は恐怖のあまり言葉も出ず、笑顔で飼ってもいい!?という二人の笑顔を見つめながら固まっていた。「すげーだろ!!おれがつかまえたんだぞ!!」と褒めてくれオーラ全開のかわいいかわいいロヴィーノに向かって「無理!!」とだけ叫んで部屋に籠ったことは一生忘れないだろう。きょとんとした顔のロヴィーノに訳を必死に説明するアントーニョの声を遠くに聞きながら自分の寝室で膝、そして頭を抱えた。結局は部屋にやってきたアントーニョに口説き落とされ飼うことになってしまったのだが極力目を合わせないようにしている。今日もきっと意気揚々と帰ってきて虫カゴことモンスターボックスにさらにモンスターが追加されるのだろう。そう考えると背筋が凍りそうだが、それよりもとにかく早く帰って来てほしい。3人に慣れてしまうとこんなにも寂しいものなのか、と思いながら小腹が空いたのでキッチンに足を向けた。冷蔵庫を開けると今日の夕ご飯、バーベキューの用意が目に入った。「今日はハナコの休息日や!」とかなんとか嬉しそうにアントーニョが言っていた。確かに野菜を切るだけだから楽ではあるが楽すぎて今することがないとなると今日はバーベキューでなくてもよかったのに、と思ってしまう。一番上の段にある一口ゼリーを3つほど手に取りリビングに戻った。ごろんとソファーに寝ころびながらゼリーを口に運ぶ。そのままごろごろしているうちに落ちて来た瞼をわざわざ開くことはなかった。

「……ハナコ!!」
「起きろよー!!」
「……んー……」

喧しい二つの声がする。ぱちっと目を開けると上から覗き込みながら笑っているアントーニョの顔、顔を横に向ければ頬に泥をつけたロヴィーノの顔があった。いつの間にか眠っていたようだ。やんちゃ二人組に疲れた様子は微塵もない。

「おかえりー」
「ただいまぁ、起こしてごめんなぁ、ロヴィが見てほしいんやって」

私が起き上がって二人が座る場所を確保すると私の隣にロヴィーノが座り、その隣にアントーニョが座る。アントーニョの首にかかっているタオルを取ると彼の汗を拭いた。外で走り回ったのだろう。服も顔もロヴィーノと同じくらいどろどろだ。

「あんがとお、ロヴィーノも拭いたって」
「ロヴィ、こっち向いて」
「んー…」
「どーしてもはよ帰りたいって聞かんくて、ホームシックにでもなったんちゃう?」
「ハナコがしんぱいだっただけだちくしょー」

さっきのタオルで泥を拭ってやると少し息苦しそうにしていた。むすっとした顔がタオルの下から現れる。これはご飯の前にお風呂だなぁと思っているとロヴィーノはソファーから降りた。ソファーの足元に置いてある虫カゴを片手に持ち、自慢げな表情で私の目の前に付き出す。

「すげーだろ!!」
「………う、うん、す、すっご〜い!!」

そう言いながらアントーニョの服をぎゅっと掴むと彼は向こうの方を向いて笑いを噛み殺していた。完全に楽しんでいる。内心ムカッとしたがそんなことよりも虫への恐怖の方が勝る。またカブトムシが増えるのか。いや、今は恐怖よりロヴィーノを褒めることが第一だ。

「本当ロヴィすご〜い、格好いい〜!!」
「だろ!?おれとアントーニョどっちがかっこいい!?」
「ロヴィーノ〜!!」
「ほんとか!?」
「えっ、なんでそうなるん!?絶対おれやろ!!」

ぐいっと身を乗り出してきたアントーニョを無視する。なんで?なんで?としつこく聞いてくる声も無視だ。というか本当にいつまで経っても彼に「子供相手」と言う言葉は通用しないらしい。

「アントーニョうっせーぞ!まけいぬ!」
「おまっ!どこでそんな言葉覚えたんや!!」
「なんかプロイセンがゆわれてた」
「……あ、そう…」
「あーもうわかったから二人とも早くお風呂いってきて、そのあとご飯ね」

はぁい!という元気な返事が二つの口から同時に発せられる。お風呂へとアントーニョと一緒に向かったロヴィーノが床に置いた虫カゴを虫取り網でそっと机の下に押しやって視界から消した。シャワーの音となにやらはしゃぐ声を遠くに聞きながら洗濯物を取り込むと、まだ太陽の匂いの残るふわふわのバスタオルと二人分の部屋着をバスルームに持って行く。

「ここ置いとくからねー」
「…ハナコも入りぃや!」
「ちょっと!!バ、バーベキューの準備するから!!」
「えぇ〜つまらんなぁ〜」
「はい閉める!!」

突然開いた扉とひょっこりと出て来たアントーニョの顔。今更裸を見てキャア恥ずかしい!となるような関係ではないがなるべく下の方を見ないようにしながら濡れたままの頭を手で中に押し込み扉を閉めた。ふぅ、と息をついていつの間にか速さを増している心音を落ち着かせる。ひとまずキッチンに避難してバーベキューの準備に取り掛かることにした。
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