「…はい、オッケーですよ」
「おーサンキュー」

絆創膏を貼り終えた部分を軽く叩いてやればシリウスの顔は少しばかり歪められるけれど、すぐさま笑顔に変わって私の頭をわしゃわしゃと大きな手が撫でまわした。綺麗な顔にできた大きな切り傷はさきほどレイブンクローの女子にやられたのだという。レイブンクローは美人が多いけど、頭がいいやつが多いから手は出さねぇつもりだったんだけどなぁ、とシリウスは呟いていた。校内でもプレイボーイとの呼び声高い彼は噂通りしっかりと遊んでいる。しかし女の子というのは彼の甘い言葉が偽りだと始めは思っていても次第に本気になってしまうのだ。このルックスにこの声に砂糖菓子みたいな言葉を頬も染めずグレーの瞳でしっかりと捕まえてから囁くのだからたまったものじゃない。実際私がそうされた訳ではないからなんとも言えないけれど。本気になった分彼女たちの傷は大きくヒステリックになった女の子にシリウスはしばしば呪いをかけられてみたり、決闘を申し込まれたりしていた。そして私ときたらその後の手当をしてやっているのだ。何の利益にもならないのに。料金制にでもしてやったらきっと今頃私はお菓子の山に埋もれるという夢が叶えられそうなほどの貯金をため込んでいるだろう。

「いい加減やめたらいいのに」
「そういう訳にもいかないんですよっと。それに噂に失礼だろーが」
「伝説にでもなりたいの?ホグワーツ一間抜けだった男として」
「誰が間抜けだ色男の間違いだ」
「自分で言う?普通」
「だって俺、格好いいだろ?」
「…ばっかじゃない?」

はぁ、と溜息をつく。これはシリウスにじゃなくて否定できない自分に対してのものだ。シリウスと廊下を歩いているとそれはそれは熱い視線が彼に注がれているのをいつも感じる。噂が立っていたって彼のファンは減りはしないのだ。

「なんで反撃しないの?」
「あ?」
「うっかり優秀なんだから反撃くらいできるでしょ」

うっかりじゃなくてしっかりだろ、と小突かれる。あーあーそうですかーと返事をしながら私はローブのポケットの中に手を突っ込んだ。シリウスはにやりと笑って言葉を続ける。

「そりゃ、俺は彼女たちを傷つけちまった訳だから、何らかの痛みは背負わなくちゃいけねーわけだよ」
「…意味わかんないんですけど、それなら最初から傷付けなきゃいいのに」
「まあ、そりゃそうだけどよ、俺には無理な訳」
「直す気がないだけじゃん」
「まーな。…ま、こんくらい痛くもねーよ、心の傷の方が治りにくいって言うだろ?」
「…そうだね。はーぁ、本当あんたって犬みたい、ずっと発情期なのね」
「んだとコラ」

首に腕を回されて緩く締められる。絶対に本気でそんなことはしたりしない。ふざけてじゃれあうだけ。それなのに、私ときたらまるで抱きしめられるように錯覚してしまうのだ。全然痛くないのに、すごく痛い。心の傷は治りにくいし、ずっとずっと痛いってことを早く知って欲しい。シリウスの知り合いの女の誰よりも傷が深いということに気付いてほしい。だって、みんな一回はシリウスに女として愛されてるんだから、それでできた傷なんて。ロクでもない恋愛遍歴を事細かに聞かされて、その横で傷の手当をしている私にできた傷はどれだけ大きいのか。きっと大きすぎて傷であることすら気付かないほど大きい。だから傷になんか気付かないふりをして、今日も彼の隣で小さな幸せを得て少しだけ傷を治療する。
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