番外編  | ナノ
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体育祭まで2週間を切った日の朝、違うクラスの奴がA組へ入っていくのが見えた。
その横顔に、思わず足音を立てないよう早足でクラスへと向う。

気配を消して廊下からクラスの中を伺う。
教卓に何かのプリントを置いている生徒は間違いなく赤音だった。


赤音が雄英に入学したと知ったのは、下駄箱で紫髪の男と話していたのを見かけたときだった。
今の赤音はあの頃とは見た目も雰囲気もまるで違っていた。
家族ですら気付けるかどうかというほどに変わっていたが、それでも俺は一目見て赤音だと確信した。

もう会うことは無いと思っていた赤音がそこにいるということに、全身の血が沸き立つような感覚がした。
話の流れで赤音が俺と同じ特体生だということを知った。
そんな些細なことでも赤音と同じというだけで血が沸き立つような喜びを感じた。

それ以来、食堂で緑谷や麗日たちと飯を食ってるところや廊下で見かけることはあったが、こんな近くで赤音を見るのは初めてだった。

その顔が見たい、と覚悟を決め声をかける。
振り向いた赤音は目を丸くし言葉を失っていた。
何もかもが変わってしまったが、俺の右と同じ灰色の目だけはそのままで、その目に自分が写っていることに体が震える。

何も反応の無い赤音に声をかけると、教員からプリントを配るよう頼まれたことが伝えられる。
目が合っているようで合っていない視線に、俺を見てくれと手を伸ばしそうになる気持ちを抑える。
伝えることだけ伝えると赤音は足早に教室出て行き、その戸を閉めた。

俺の声は震えていなかっただろうか。
目を瞑り息を深く吐く。

あの顔は俺を覚えていてくれたと思ってもいいのだろうか。
俺を、まだ憎んでいるのか。
足早に去っていったことが赤音の答えだろうに、聞けもしないことばかりが頭をよぎった。



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