番外編  | ナノ
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赤音は俺の半身であり、憧れでもあった。

赤音は誰よりも親父に似ていて、その片鱗は個性が発現する前から現れていた。
その能力の高さに、周囲は赤音が親父のあとを継ぐヒーローになることを信じて疑わず、もちろん、俺もそのうちの1人だった。

誰よりも近くで赤音を見てきたんだ。
親父より、母より、他の兄弟より、俺が一番赤音がヒーローになると信じていた。
互いにどんな個性が出るのか話し合い、将来は2人でオールマイトのような1ヒーローを目指そうと誓い合った。

ずっと一緒だと思っていた。


赤音が無個性と判明するまでは。


赤音は常に俺の二歩三歩先を歩いていた。

同年代の中では体の小さかった俺は他の子どものからかいの対象になり、そんな俺を救けてくれたのは赤音だ。
親父のトレーニングが辛くて涙を流したときに救けてくれたのも赤音だった。

赤音は俺のヒーローだった。

けど、俺は男で赤音は女で。
赤音が少し早く生まれてきたとはいえ、俺達は双子で。

赤音に救けてもらうたびに、周囲から男のくせにと言われ続けてきた。

だからだろうか、赤音に守られるんじゃなく赤音を守る存在になりたい、と思うようになった。


赤音が無個性と知り、俺はその時、密かに喜んだ。

俺が赤音を守る。

そんなクソみたいなプライドのせいで、俺は赤音がどれだけ苦しんでいたのか気付くことができなかった。


ある日から赤音がいなくなり、次第に母は病んでいった。

ようやく赤音が養子に行ってしまったと知ったとき、母は俺に煮え湯を浴びせた。

倫理感の狂った親父とは違い、母は普通の感性を持った人間だった。
そんな母が、無個性を産んだのはお前の責任だと罵られた挙句、自分の子を捨てられて心が病まないわけがなかった。
もしかしたら、母は俺の左側に赤音を見ていたのかもしれない。
あくまで憶測でしかないが。


そんなときに学校への送迎の車の中で赤音らしき少女を見かけた。
何故何も言わずいなくなってしまったのか、いつ家に帰ってくるのか、聞きたいことがありすぎていても立ってもいられず誰にも言わず1人で家を飛び出した。
赤音が戻ってくれば母は治り、また家族が昔みたいに戻れると信じていた。

赤音を守ると言っておきながら、赤音に救けてもらおうというそんな馬鹿な考えを、もしかしたら赤音は見抜いていたのかもしれない。


涙を流し俺に大嫌いと叫んだ赤音の言葉を聞いた瞬間、自分の体の左半分を失ったように感じた。

赤音のことなら何でも理解していると思っていたし、赤音も俺のことを理解してくれていると思っていた。
しかし、それはただの思い過ごしでしかなかったことにその時初めて気がついた。


その後のことは覚えていない。

ただ、あの時の赤音の言葉と、俺を拒絶した赤音の悲痛な表情は10年経った今でも忘れたことは無かった。


あの日以来、左の個性を使わないことを自身に誓った。
左を使わざるを得ないときには、あの時の赤音の顔を思い出す。

この個性は俺のものじゃない。
俺が赤音から奪ってしまった個性だと心に刻み付けるために。

左を使わずに一番になる。
親父への復讐であり、それが赤音への唯一の償いだった。


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