番外編  | ナノ
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 ヒーロー科のA組B組と来て、ほぼ全員がヒーロー科の滑り止めで入学した普通科のC組だからか、うちのクラスは鬱屈してる奴が多い。俺もその1人だったけど。
 そんなC組の中で良くも悪くも、主に悪い意味で目立っていたのが塚内だった。
 雄英の特待生ってだけで注目を集めやすいけど、それに加えて今じゃ絶滅危惧種の無個性。特にC組はヒーロー向きの強個性ありきの入試で落ちた奴ばっかだったから、そりゃ悪い意味で目立ちまくるわけ。
 本人の目の前で陰口を言う奴もいれば、表向きは特待生だからってクラス委員を押し付ける奴もいた。俺自身、憂さ晴らしのつもりで塚内に声をかけたことがある。
 でも、塚内はなんて言われても怒ることも悲しむこともなかった。無関心に淡々と事務処理をしている感じで。それが余計に癇に障って、塚内への憂さ晴らしもはじめはクラスの一部だけだったのが、クラス中に広がっていった。

 そんな塚内が初めて苛立ちを見せたのが、体力テストの時だった。
 良い個性じゃないって言われたときは無個性のくせに何がわかんだよって苛ついたけど、塚内が言ってることは間違ってはいなかった。
 普段より少し言い方を強めただけで怒鳴り散らしていたわけでもなかったのに。あの時、皆が塚内に委縮していた。
 体力テストの結果は1つ1つで見れば個性を使った奴が勝っている種目があっても、全種目で比較すれば塚内が一番だった。俺の言っていたことは、ただの言い訳でしかなかったことを思い知らされた。


 あれから皆の中で塚内への見方が変わったり、雄英体育祭でヒーロー科への編入の可能性もあるって知ってから、それぞれがトレーニングとかするようになっていった。
 一部は相変わらず無個性がとかヒーロー科とのコネ作りに必死だとかなんか言っていたけど、少なくとも俺はそうじゃない。無個性の塚内に出来て俺にできないわけがないってのは、まァちょっとはあったけど。
 でも今まで運動といえばサイクリングと、ヒーロー科の入試前にトレーニングを少しやっていただけの俺には想像以上にきつかった。他の奴が軽々とやっていることが自分には出来ないのが情けないってのもあって、トレーニングエリアの一番遠いところにあるトレーニングルームに行ってみたら、そこに塚内がいた。
 さすがに入ってすぐに部屋を出るっていうのも失礼だなって、塚内から少し離れたところにあるエアロバイクに乗りながら、あからさまにならないように塚内を見てみた。
 絶対に俺じゃ持てない重さのバーベルを持ち上げていた。アイツ、本当に無個性かよ。

 この個性社会、どうしても人を個性で判断してしまうところがある。増強型の個性はヒーロー向きで異形型の個性は化け物扱いされて。俺みたいな個性は、犯罪向きだって言われて。ヒーロー目指してトレーニングしてんのに、モチベ上げようにも上がらねえよ。
 なんで塚内はあんなに頑張ってるんだって。声をかけたきっかけはそんな些細ものだった。

 塚内の話を聞いていて思ったのは、塚内のなりたい自分っていうのは自分じゃなくて他人のためにあるんだなってことだ。家族に恩返しするためとか、俺も親に感謝する気持ちはなくはないけど、この歳でそんな重く考えたりしないだろ。でもそれぐらい強く想っているから、塚内は頑張れているのか。
 トレーニングルームを出ようとしたときに塚内から掛けられた言葉を、俺は一生忘れないだろう。ヒーロー向きの個性、か。
 そうだよ。犯罪者とか敵向きって言われている個性だから、救けを求める人のために使いたいんだよ。
 敵なんかじゃない、俺はヒーローになるためにここにいるんだ。


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