番外編  | ナノ
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「手術は終わったよ……って、アンタもいたのかい」

ベッド脇に誰かが来た気配を感じて目を開く。そこには眉間に皺を寄せた塚内さんが立っていた。
もう試合も始まっているのに来てもらったことを申し訳なく思って口を開こうとした僕より先に、塚内さんが口を開いた。

「焦……轟が本気を出せば勝ち目が薄くなるなんて、君なら分かっていたんじゃないの?それなのに何であんなことをしたの」

塚内さんが轟くんの名前を言い直したことが少し気になった。けど、そのあとの塚内さんの言葉が胸に刺さった。
あの海浜公園のときと同じように、眉間に皺を寄せて辛そうな表情を浮かべる塚内さんから目を逸らす。
氷結の個性だけでも既に身体はボロボロになっていたんだ。塚内さんがそう言ってしまう気持ちも分かる。それでも、あの時僕は全力を出さなかった轟くんに、悔しいと思ってしまったんだ。

「それは……うん、そっか。あまり無茶しないでね」

言おうとしていた言葉を飲み込み、塚内さんは笑みを見せて言った。
塚内さんが何を言おうとしていたのかは分からない。でも、その目は怪我をして帰った僕を見る母と同じ目をしていた。
応援してもらって、裏切ってしまった挙句心配までさせてしまった。

「……うん」

無茶をしないでという塚内さんの言葉に、僕はただ頷き返すことしかできなかった。


オールマイトと一緒に観客席までの通路を歩いているときに彼からから衝撃的なことを聞かされた。
まさか、オールマイトも無個性だったなんて。
オールマイトが僕を選んだの同じ無個性であるという同情もあったのかもしれないけど、それでも僕にしか導き出せないものがあると言ってもらえた。それなのに僕は自分より相応しい人がいるんじゃないかと思って、オールマイトの思いを無下にしてしまうところだった。ここまで言ってもらえたんだ。頑張らないと。
見届けて来なとオールマイトに背を押されたとき、1つの考えが頭をよぎる。
歩こうとしていた足を止めた僕をオールマイトが不思議そうに見ていた。

「緑谷少年?」
「オールマイト、あの……」

塚内さんが無個性だと知ってからずっと考えていた。
僕の個性は人から授かったものであるということを伝えるべきなんじゃないかってこと。
かっちゃんに話してしまったときにオールマイトに次はナシで頼むって言われたことを忘れたわけじゃない。母と同じように誤魔化すことも考えていた。でも、塚内さんのあの顔を見たときそんな事は言えなかった。
塚内さんが僕を応援してくれたのは同じ無個性だからっていう同情もあったんだと思う。それでも、塚内さんは無個性の僕を初めて応援してくれた人だった。
その塚内さんに何も言わないままにしておきたくなかった。

「僕の個性が人から受け継いだものだって伝えたい人がいるんです。オールマイトがあれだけ言っていたのに馬鹿なことを言っているのは分かってます!でも!――」
「……赤音くんのことか」

オールマイトの言葉に咄嗟に伏せていた顔を上げる。

「何で、塚内さんのこと……」
「彼女の名字に聞き覚えはないかい?」
「聞き覚え……あっ!もしかしてあの時の警察の……」

僕の言葉にオールマイトが頷いた。オールマイトと最も仲の良い警察の塚内直正さん。
確かに2人とも同じ名字だ。2人ともあまり似ていないから言われるまで気付かなかった。

「赤音くんと直接話したことはないが、塚内くんの妹さんだということは知っていたよ。彼女が無個性だということも。だからだろ?」

2人が兄妹だったということに驚いたが、それ以上に塚内さんが無個性だということも知っていたことに驚いた。
僕の考えていることなんてお見通しだったみたいで、オールマイトの言葉に頷く。

「君の言いたいことはよく分かる。しかし前にも言ったがこの秘密は君を守るためでもあるんだ」
「……」
「……この事に関しては私の一存じゃ決め兼ねる。ほら、もう爆豪少年と切島少年の試合が始まるぞ」
「……はい。すいませんでした」

オールマイトならそう言うだろうと分かっていたけど、やっぱり少しショックだった。
ただ俯くことしかできない僕を、オールマイトがポンポンと頭を軽く叩いて促す。
とにかく、今は試合を見て自分の糧にしていくためにも無理矢理気持ちを切り替えていかないと。
オールマイトに頭を下げて、観客席へ戻るための通路を進んだ。


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