番外編  | ナノ
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「――全力でかかって来い!!」

もう腕は使い物にならねえくせに、尚も宣戦布告する緑谷。アイツに金でも握らされたのだろうか。
勝たせるつもりはねえが、そんなボロボロになっちゃ次の試合に出れるかも怪しいところだ。
それなのに、握れなくなった指を無理矢理弾いてまで緑谷は攻撃を続けようとする。

「何で、そこまで……」
「期待に、応えたいんだ……!笑って、応えられるような……カッコイイ人に……なりたいんだ」

――焦凍……

お母さんの声が頭をよぎる。
いつの間にか、この先の言葉を忘れてしまった。

「全力も出さないで一番になって、完全否定なんて、フザけるなって今は思ってる!」
「……うるせえ……」

お前に、何が分かるんだ。

暴力を振るうような人間になりたくないと言った俺の頭を撫でててくれたお母さんも、遠くに行ってしまった。
赤音もお母さんも俺から離れていって、残されたものは2人への後悔と親父への憎しみだけだった。
だから、左の個性を使わないで親父を完全否定する。それだけがヒーローを目指す目的になっていた。
俺は、親父を――……

「君の!力じゃないか!!」

――でもヒーローにはなりたいんでしょう?いいのよ、おまえは血に囚われることなんかない。なりたい自分になっていいんだよ。
――焦凍ならなれるよ

思い出した。あの時お母さんが何て言っていたのか。俺がヒーローを目指した理由を。全部、思い出した。


個性が発現する前から、親父は俺達にトレーニングをさせていた。自身を超えるヒーローにするために。
だけど、あの時は自分から望んでヒーローになりたいと思い、トレーニングをしているわけではなかった。

でも、赤音とお母さんと3人でオールマイトを観たとき。俺もオールマイトのようになれたらと、初めてヒーローになりたいと思った。

「焦凍はオールマイトが大好きだね」

オールマイトの話をする俺を、赤音は嫌な顔一つせずに話を聞いていた。

「うん!でも、強くないとヒーローにはなれないってお父さんが……」

あの時、トレーニングの実力は俺よりも赤音のほうが上だった。トレーニングだけじゃない、全てにおいて赤音は俺の上を行っていて、俺はその後をついていくことしか出来なかった。
だから自分がオールマイトのようなヒーローになんてなれるのかと、いつも不安を抱えていた。

「焦凍ならなれるよ」
「赤音より弱いのに……?」
「でも、焦凍は私よりも優しいもん。優しい人は心が強い人なんだって!」

赤音はそんな俺を真っ直ぐ見て、そして、笑った。

「だから、焦凍ならなれるよ。オールマイトみたいに優しくて強くて、かっこいいヒーローに!」

焦凍ならなれる。
そう赤音が言ってくれたから、俺はヒーローを目指そうと思ったんだ。


応援席に座る赤音を見る。赤音がどこにいるかなんて探さなくても分かった。
頭に木霊する赤音の悲痛な声に、身体の左側が熱くなる。赤音から奪ってしまった個性だから使わないようにしていた。

赤音、ごめん。

それでも、俺はなりたいと思ってしまったんだ。
焦凍ならなれると赤音が言ってくれた。オールマイトみたいに優しくて強くてかっこいいヒーローに。




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