番外編  | ナノ
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轟くんとの試合のため、選手用の控え室へ向かう。
その道の途中で、前を歩く塚内さんが見えた。
声をかけると、どうやら麗日さんのところへ行くつもりだったみたいだ。
会いに行ってもいいのかと不安気に尋ねてきた塚内さんに、手を振って答える。

「……緑谷くん、個性あったんだ。すごいヒーロー向きな個性なんだね」

塚内さんに言葉に咄嗟に左手を降ろす。その時、塚内さんの表情が曇ったのを見て、後悔した。
オールマイトから個性を受け継いだことを知らない塚内さんが僕が無個性だと思っているということを、完全に失念していた。
母に言ったように突然変異によるものだと誤魔化してしまえばいいのに、何故か言葉が出てこない。
言いあぐねている僕に塚内さんは気にしないでと声をかけてくれた。
けど、その表情はとてもじゃないけど気にしないでなんていられなくて。
僕は、塚内さんを裏切ってしまったんだ。
頭の中に浮かぶ塚内さんへの謝罪はどれも言い訳染みていて、結局控え室に着くまで僕らは無言のまま歩いていた。

控え室のドアを開けると、試合に負けた麗日さんが何故か笑顔で出迎えてくれて、思わず目が点になった。でもどこか無理に明るく振舞っているように感じて、思わず大丈夫かと声をかける。

「大丈夫!意外と大丈夫!……デクくんだってすぐ先見据えてやってるし……負けたからって負けてられんよ」

自分に言い聞かせるように呟いた麗日さんに何か声をかけようとしたら、切島くんが鉄哲くんに勝利したというアナウンスが流れた。
麗日さんに頑張ってと声をかけられて、控え室の外に出る。
ドアを閉めた塚内さんと目が合ったと思ったら、向こうから麗日さんの嗚咽が聞こえてきた。塚内さんが辛そうな表情をしてドアの前に佇んでいるのを見て、友達なのに何もできない自分が歯痒く感じた。

それでも、塚内さんはまだ僕を応援していると言ってくれた。
麗日さんからも塚内さんからも、僕自身は何も返せていないのに背を押してもらってばかりだ。
しかも僕は塚内さんを裏切ってしまっているのに応援してもらうなんておこがましいことなのかもしれない。
そう思いながら塚内さんとは反対の、試合場に続く通路を歩いていくと角から出てきたエンデヴァーに、思わず言葉を失った。

今までの僕なら2のプロヒーローに出会えたことが嬉しくて感動していたかもしれない。けど轟くんから彼の境遇を聞いた後で、とてもそんなことは考えられそうになかった。

「ウチの焦凍には、オールマイトを超える義務がある」

そのために個性婚をして轟くんや家族を苦しめて、無個性だった轟くんの双子のお姉さんを捨てたんだ。
この人にとって、自分の子どもは身代わりでしかないんだろうか。そう思うと、とても悲しい気持ちになった。

「――くれぐれも、みっともない試合はしないでくれたまえ」

僕に背を向けたエンデヴァーを盗み見たとき、エンデヴァーに目を向けて立ち止まっている塚内さんの姿が見えた。
けど、塚内さんはもっと別の、どこか遠くを眺めているようだった。

「言いたいのはそれだけだ。直前に失礼した」

エンデヴァーの声に、さっきの轟くんの言葉を思い出す。
まるで自分の個性じゃないように言っていた轟くん。でも、たとえどんな個性を持っていても轟くんは誰の代わりにもならないと思う。
力を受け継いだからといって、僕がオールマイト自身になれないように。



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