番外編  | ナノ
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下校しようと下駄箱へ向かうと、同じように下駄箱から靴を取り出していた塚内さんを見かけた。
麗日さんが笑顔で塚内さんの元へ駆け寄り、一緒に帰ろうと誘うと塚内さんも笑みを浮かべながら承諾していた。
やっぱり女子同士の方が話しやすいのかもしれないな、なんて思っていると無個性という言葉が聞こえ、思わず身体が固まった。
そこに立っていたのは見たこともない男子生徒で、その視線が僕に向けられたものじゃなくて内心安堵する。じゃあこの男子生徒は一体誰に言っているのだろうか?

「塚内、お前何も言ってねえの?」

その言葉を聞いて、思わず塚内さんに振り返る。
さっきまで麗日さんに見せていた柔らかい表情ではなく硬い表情をした塚内さんと目が合い、確信した。
あぁ、と言葉が漏れる。
何故塚内さんが僕のことを無個性だと馬鹿にせずに応援してくれたのか。
パズルのピースがしっくりとはまったような感覚がした。
彼女自身が、無個性だったからだ。

嫌な笑い声を上げた男子生徒の心無い言葉に塚内さんが僕らから視線を逸らした。
まるで中学時代の僕を見ているようで、胸が痛かった。
塚内さんの名前を呼ぶ麗日さんの言葉を遮り、足早に去ろうとする塚内さん。その手を麗日さんが掴んだ。
もっと早くに伝えるべきだった、という塚内さんの言葉はまるで僕に言っているようで思わず拳を握りしめた。

もしかしたら塚内さんは、僕に自分自身を重ねて応援していたのかもしれない。
それでも、僕を応援してくれたのは塚内さんだけで。僕は確かに塚内さんの言葉に救われたんだ。
そう僕が口を開く前に、麗日さんと蛙吹さんが動き出していた。
2人の言葉に笑みを浮かべた塚内さんの、今まで見た中で一番自然で泣きそうな笑顔に思わず、僕の胸にも熱いものが込み上げていた。

後ろから舌打ちが聞こえたと思ったら、あの男子生徒が面白くなさそうにどこかへと歩いていくのが見えた。
一瞬不穏なものを感じたけど、それよりも塚内さんだ。飯田くんと頷き合い、3人の元へと駆け寄った。

下校する途中で、塚内さんが普通科の特待生だということを知った。
ヒーロー科と違って普通科は学力だけで評価されるのに、その中でも更に成績優秀な人しかなれない特待生って。薄々感じてはいたけど塚内さんはやっぱり凄い人なんだと思う。
その塚内さんに褒められて、つい舞い上がってしまった僕は大事なことを忘れていたんだ。
塚内さんは僕がオールマイトから個性を受け継いだことを知らず、今も僕が無個性だと信じているということを。


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