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※注意(閲覧は自己責任でお願いいたします)
・性的倒錯要素有(メトフィリア、サディズム)
・腹パン・嘔吐(軽度)表現
・ぬるいけどR15


昼休み。切島がトイレから教室へ戻ると、峰田達が上鳴の机を囲むようにして何かを見ていた。

「何見てんだ?」

切島が声をかけると顔を上げた悪友達はニヤリと笑い、机の上に置かれた雑誌を切島に見せた。
それは水着を着たアイドル達が様々なポーズをしているグラビア写真のページだった。

「切島はこの中だったらどの子がタイプよ」
「はぁ?いや、俺は別に」
「なにカマトトぶってんだよ切島ぁ。お前も女の好きなところくらいあるだろ?おっぱいとか尻とか足とかよぉ」

峰田が切島を肘で小突く。それを手で払う切島の頬は少し赤くなっていた。
絵に描いたような硬派な男であるが、切島も異性に興味が無いわけではない。ただ、雄英を目指すことを決めてからはそういったことは頭の片隅に追いやられていた。

「まーたそんなこと話してんの」
「名字」

峰田達が女の好きな部位について談義していたところに、呆れたように笑いながらクラスメイトである名字名前が声をかけてきた。

「おい、女子禁制のボーイズトークだぞ」
「しょうがないじゃん。私の席が隣なんだから。瀬呂、ちょっと椅子引きたいから退いてくれないかな」
「あぁ、悪ぃ」
「ありがと。確かこのへんに……あったあった」

机の中からスマホを取り出し、用は済んだと名前が切島達に背を向ける。

「じゃあボーイズトークを楽しんでくださいねー、っと」

そう言って名字はさっさと廊下へと歩いて行った。名字の姿が見えなくなり、上鳴がポツリと呟く。

「アイツの反応、女子にしちゃ薄いよな」
「あぁ、胸も薄いしな」
「サバサバしてるってか、こう女子!て感じではないよな」
「尻も堅そうだしな。女ってより男って感じのカラダだ」
「……峰田、お前いい加減にしないと名字に殺されるぞ」

名字だけじゃなくA組女子全員を敵に回しかねない発言をした峰田に、切島はため息を吐いた。


昼休み後、5時限目はの授業は体育祭のトーナメント戦を模した対人格闘訓練。今回はコスチュームを着用し、A組は体育館へと集まっていた。
相手決めはくじ引きで行い、切島が引いたのは8番。先に引いていた名字と同じ番号だった。

「切島かー。よろしくね」
「おう、よろしくな」

女子は女子でも名字で良かったと切島は内心安堵する。
女だからという理由で手加減をするわけではないが、それでも女相手に本気を出すのは抵抗がある。その点、名字は切島と同じ近接格闘に特化したタイプであり、あまり女気も無いため幾分か気は楽だった。


ついに7組目の講評を終えて、切島と名字の順番がやってきた。

「切島、言わなくても分かってると思うけど手加減無用だからね」
「おうよ!」

名字の言葉に切島が力強く拳を握り応える。
2人が向き合い構えたのを確認し、相澤が開始のホイッスルを鳴らした。


ホイッスルが鳴って5分が経つが、互いに譲らぬ攻防が続く。個性の特性上拘束技に長ける名字の攻撃を紙一重で避けて力を逃がしていく切島。鞭のようにしなやかにそれでいて一撃一撃が重い名字の攻撃に防戦一方の切島であったがそろそろ身体の硬度が限界を迎えそうであった。
名字の攻撃は切島よりリーチが長い。その反面懐に入られると弱い。その弱点を突いて反撃に出るべきだと考え、切島は駆け出す。身体を硬め、拘束しようとする名字の腕を振り切り懐に入る。そして名字の腹へと拳を打ち込んだ。
この時、切島は決して何も考えずに拳を入れたわけではない。力も手加減こそしていないものの本気で入れたわけではないし、何より名字の個性から怯ませる程度のダメージだろうと。しかし切島は思い違いをしていた。名字の個性は体をゴムのように柔らかくすることであるが、切島のように全身を硬化出来るのとは違い、柔らかくなるのは四肢のみであり体幹部位は柔らかくなることはないということ。そしてコスチュームを装着しているとはいえ柔らかくなることのない腹部に、しかも昼食直後の5時限目にダメージを受けるとどうなるか。

「っ、う"ぁっ!」
「え」

目を見開き咄嗟に口元を押さえた名字が膝をついた。それを見て呆然とする切島。俯いていて表情は見えないが口元を押さえた名字の手の隙間から白濁した液が零れ落ちるのが見えた。
背後でクラスメイトが騒然とする声が聞こえたが切島の耳にはぼんやりとしか聞こえていない。それよりも目の前で嘔吐するのを我慢しようと嘔気付きながら浅く呼吸する名字の音がやけに大きく聞こえた。
ばくんばくんと心臓が大きく脈打ち、四肢が、背筋が震える。
まるで脳に靄がかかっているようで、無意識にうずくまる名字に手を伸ばしたその時。

「名字、大丈夫か」

すぐそばで聞こえた相澤の言葉に靄のかかっていた切島の意識が覚醒した。
相澤が背中を摩りながら吐きたきゃ吐いていいと声をかけたが、名字は小さく首を横に振った。
俺のせいで名字が苦しそうにしている。そう考えた途端、切島の目の奥が熱くなった。

「せ、せんせ……も、だいじょうぶで、す。すいません……」

ようやく呼吸の落ち着いてきた名字が顔を上げた。未だ口元は手で押さえたままだったが。

「とりあえず保健室行ってばあさんに見てもらえ」
「おっ、俺も行きます!」

相澤の言葉に頷き立ち上がろうとした名字がわずかにふらついたのを見て、切島が相澤に歎願する。

「だいじょうぶだよ、切島。1人でも、行けるから。手加減しないでくれて、ありがとう」

だから私の代わりに講評聞いておいてね、と口元を手の甲で拭いながら切島を見る名字。額には汗を浮かべ未だ呼吸も浅く、目元には涙を浮かべたままで名字は切島に笑みを向けた。

「っ!」

全身に熱を感じながらも切島は動きを止める。

「おい八百万、名字を保健室まで連れて行ってやってくれ」

学級委員だからだろう、相澤が八百万に声をかける。焦ったように返事をした八百万が足早に名字のもとへ駆け寄った。
労わるように声をかける八百万と普段と変わらないテンションで接する名字の後姿を見ていた切島の名前を相澤が呼ぶ。

「講評するぞ。女子だからと手加減しなかったのは立派だが……まぁ、覚悟しておけよ」
「……っす」

(A組女子による)講評は切島にとって針の筵に座っているかのような時間であったが、それでも全身の熱が治まることはなかった。


授業が終わり、コスチュームから着替えることなく真っ先に保健室へと向かった切島だったが、既に名字は教室に戻ったとリカバリーガールから伝えられ駆け足で制服に着替え教室に戻る。
教室ではA組の女子達が名字の席を囲むようにして口々に名字の心配をしていた。それに苦笑しながら答えていた名字が切島に気付く。

「名字」

切島が名字の席へと近づくと、芦戸達はやや不満気な顔をしながらも切島のために場所を空けた。

「名字、悪かった!」

勢いよく頭を下げる切島に苦笑する名字。

「だから大丈夫だって。手加減しないでって言ったのは私だし。むしろ、おかげで私の弱点も分かったんだから感謝してるよ」
「でもよ……」
「それに講評の時間でみんなにこってり絞られたんでしょ?なら良し良し。今度は今日の分もひっくるめて切島にお返しするから覚悟しててね」

放課後からみんなで特訓だーと芦戸達に絡む名字を見て、切島はこれ以上は言わない方がお互いのためだと判断する。既に名字の表情に先程浮かべていた苦痛の色は無い。
腹を殴打されて目を見開いていた姿も、嘔吐するまいとうずくまっていたものの口元から零していた姿も、嘔気付いていながらも目に涙を浮かべ堪えていた姿ももう見られないのだ。
あの時の名字を思い出し身体の、さっきまでは気付いていなかったが下腹部に熱く重いものを感じ咄嗟に教室を出た。
不思議そうに自身の名前を呼ぶ名字の声があの時の声と被り、やけに耳に残った。


トイレに誰もいないことを確認し、洋式トイレのドアを開けカギをしめる。下腹部の圧迫感に息が荒くなる。下を見ると勃起した自身の物がズボンを押し上げていた。

「っハァ、ハァ……嘘だろ……」

昼休み、峰田は切島をカマトト扱いしていたが、単にそういったものに淡泊なだけだと切島自身は思っていた。しかしそれは単に自身の性癖を理解していなかったに過ぎず、切島にとって性的興奮を高めるのものは女の胸でも尻でも足でもなく、同じクラスメイトの苦悶する姿だった。ようやく気付いた自分の性癖がいかに異常なものであるか、切島が悩むのはまた別の話。

今はただ、あと5分後に迫っている6限目までにこの興奮冷めやらぬ自身の物をどうするか、そのことで頭がいっぱいだった。



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