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6限も終わり早く帰ろうと下校する準備をしていると、誰かを探しているような素振りを見せていた担任が口を開いた。
何か、嫌な予感がする。

「委員長は……あぁ名字か。確か帰宅部だったよな?悪いがこのプリントホチキス留めしておいてくれ」

もう頼みごとでも何でもなく確定事項みたいで、先生にプリントの入った籠を手渡される。
えぇ、えぇ。どうせ私はノーと言えない典型的な日本人です。委員長だって他薦でやったものだし。
でもまぁ、先生から頼まれたものは仕方ない。
勝己くんに頼まれごとがあるから先に帰って欲しいというトークを送る。今日は久しぶりに1人で帰れそうだ。

あの日以来、ヒーロー科が7限まである日以外はほとんど一緒に帰っている。というか帰ろうとしたときは大体勝己くんと下駄箱とかで顔を合わせて、そのまま一緒に下校っていうパターンが多い。でも相変わらず話すことなんてないからほとんど無言だし、共通の知り合いである出久くんの事を話そうと思ったら何でか勝己くんの機嫌が悪くなるから、結局何も話すことなんてなかった。地雷って分かってる地雷を踏む勇気は私にはない。

連絡先を交換したのは授業が早く終わっていつもより早く帰った日の翌日。登校すると勝己くんが私のクラスの前にいて「先に帰るなら連絡くらいよこせ」となし崩し的に連絡先を交換することになった。
一緒に登校した友達はあの爆豪勝己と!?と凄い驚いた様子だった。でも私が一番驚いてる。だって勝己くんと同じだったのって幼稚園くらいだし。


クラスメイト達が帰った教室で1人ホチキスを留める作業をする。友達ですら手伝おうか?と聞いてくれることもなく帰るなんて……現実は非情である。
トークはスマホのロック画面に通知されるように設定しているけど、勝己くんからの通知は無い。既読スルーをしているのかそれともスマホを見ていないのか。まぁ別にどっちでもいいけど。今日は久しぶりに本屋にでも寄ろうかな。

なんてそんなことを考えていたら、閉められていた教室の扉が開いた。
そこに立っていたのは勝己くんで、目が合うと眉を寄せながら歩いてきた。

「いつまで待たせるつもりだよ」
「さ、先帰っててって連絡したよ……」

最近は慣れてどもるのが少なくなったとは思ってたけど、不機嫌そうにされるとやっぱり少し怖い。
スマホを触りだした勝己くんが目を丸くした。どうやらトークを見ていなかったみたいだ。

「時間かかるから先帰ってて、」

言葉を言い切る前に近くの席に座った勝己くんに、えぇーと言ってしまいそうになった口を慌てて閉じた。私の言葉を無視してスマホを触っている勝己くんだけど、帰るつもりは無いみたいだ。
別に残ってもらわなくてもいいから早く帰ってくれないかな、と思いつつも言葉に出来ない自分のチキンっぷりに段々諦めモードになって大人しくホチキスを留めていくのを再開した。


「遅え」

お互い話すこともなく、静かにホチキスを留めていたら5分もしないうちに勝己くんが少しイラついた様子で口を開いた。
ビクつきながら勝己くんを見ると、舌打ちをして頭を掻いていた。

「それいつ終わんだよ」
「えっと、まだあと半分残ってるかな」
「チッ、寄越せ」

ホチキスを手渡すと、私の倍以上の速さでホチキスを留められていく。その上、紙のズレが無く正確に留めらていて、思わず感嘆の声が漏れた。
でも勝己くんには関係のないのに雑用をさせてしまってさすがに申し訳なく思い、声をかける。

「あとは私がやるよ」
「お前よか俺がやった方が早え」

ばっさりと言葉を切った勝己くんだったが、あっという間に残っていたプリントをホチキスで留め終えた。


ホチキスで留め終えたプリントの束をまとめている間、勝己くんは既に立ち上がり帰る準備をしていた。
そんなに早く帰りたかったら先に帰ればよかったのに、と思わなくもないけど勝己くんのおかげで早く終わったのは確かだ。
それに誰も手伝ってくれない中で、手伝ってくれたのは勝己くんだけだったし。

「あの、」
「あ?」
「えっと、勝己くんのおかげで早く終わったから……手伝ってくれてありがとう」

顔を見て言うのが何か恥ずかしくて、プリントの束をまとめながら勝己くんにお礼を言う。でも勝己くんからは反応も何もなくて。もしかして何か気に食わなかったのかと慌てて勝己くんを見ると、呆けたように固まっていた。

「か、勝己くん……」
「ッなんでもねえよ!さっさと行くぞ!」

恐る恐る声をかけると、ハッと我に返ったように勝己くんがさっさと教室を出て行ってしまった。
一体何だったんだろうか……。でも、勝己くんは意外と優しいのかもしれない。
幼稚園時代で止まっていた勝己くんの印象が少しだけ変わった。

勝己くんはさっさと出て行ってしまったけど、私はまだこのホチキス留めされたプリントの束を先生に渡しにいかないといけない。
本当は1人で帰るつもりだったけど、多分勝己くんが待っているだろうと思い、足早に職員室へと向かった。



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