明日は明日の風がふく | ナノ
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 目を覚ますと辺りは薄暗く、ここが死柄木に拉致された場所であることを思い出した。
 上が何やら騒がしい。爆豪勝己が暴れているんだろうか。

 ため息が漏れ出る。死柄木の話なんかを聞いたからあんな夢を見てしまったんだ。
 目元を拭っていると部屋の外を慌ただしく走る複数の足音が聞こえ、勢いよく扉が開かれる。
 周囲を警戒するように防弾服を着た3人の警察官と見たことのないプロヒーローが部屋に入ってきた。

「こちら二班。外見特徴の一致する少女を発見。直ちに保護する」
「塚内赤音さんだね?救けにきたからもう大丈夫だ」

 プロヒーローの言葉に頷く。どうしてここが分かったのかなんて聞く余裕すらもなく、すぐに立ち上がるように促され部屋を出る。
 ヒーローと警察に挟まれるようにして廊下を駆け、ついに出入口が見えたとき。目の前に現れた黒い汚水のようなものから、何人もの改人脳無が飛び出してきた。
 死柄木の言葉が頭をよぎる。実際に間近で見てしまった脳無の姿に、全身が粟立った。
 ヒーローと2人の警察官が脳無達の前に立つ。

「早くその子を外へ!」

「コイツ、酸性の唾液を吐いてっ、う、うわぁぁああ!!」
「は、離せェぇぇぇぇッ!」


 背後から銃撃音と悲鳴が聞こえ、思わず足が竦む。全身を伝う嫌な汗が止まらない。
 私が死柄木に捕まらなければこんなことにはならなかった。私が何も持っていなかったから、こんなことになってしまった。

「止まんな!走れ!!」

 残った1人の警察官が私の背中を叩き叱咤する。何も見ないように、考えないようにして出入口に向かって走った。

 外へ出ると、屋内とは比べ物にならない脳無の数に息を呑む。
 夜分の視界の悪い中、赫灼とした父の姿があった。その横には兄さんもいて、安堵感が込み上げてくる。

「兄さ、っ!?」

 兄さんの名前を呼ぼうとしたその時、口の奥から悪臭のする何かがせり上がり、嘔吐する。
 黒い汚水のようなものが体中に纏わりつき、咄嗟に前に顔を向けると兄さんと父と目が合った。
 視界が汚水に遮られる中、私の名前を呼ぶ兄さんと父の声が聞こえたような気がした。




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