明日は明日の風がふく | ナノ
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「赤音」

 焦凍が私の名前を呼んでいる。
 悪いけど、もう少し寝かせて欲しい。眠すぎて瞼が開けられない。

「もう少し……」
「赤音、早く起きないと入学式に遅れる」

 焦凍が少しだけ声を大きくして、私の肩を揺する。
 そういえば、今日は雄英の入学式があったんだ。
 瞼を開けると、目の前には私の顔を覗き込んでいる焦凍の顔があった。

「あれ、顔……」

  焦凍の顔の左側、あるはずの火傷痕がない。

「顔?」
「ううん、なんでもない」

 何を言ってるんだと焦凍が首を傾げる。
 ほんと、自分でも何言ってるんだろう。まだ寝ぼけているのかもしれない。


 焦凍に手を引かれて居間へ行くと、朝食を食べながら新聞を読んでいるお父さんがいた。
  思わず身が竦む。
 焦凍が席に着き、その隣の椅子に座る。向かいに座るお父さんは新聞が仕切りみたいになっていて顔はよく見えなかった。
 ふすま越しにお母さんがお手伝いさんと共に忙しなく動いているのが見えた。
 皿の上にはハムエッグトーストが載っている。
  見慣れたいつもの朝ごはんだった。

「今年からオールマイトが教職に就くそうだ」

 お父さんの言葉に食事をしようとしていた手を止めて、姿勢を正す。

「お前達はあの男を超える義務がある。俺の子として恥ずかしくない行いをしろ」

 お父さんなりの激励は怒っているみたいでいつも分かりづらい。もっと優しく言えばいいのに。
 お母さんにそう愚痴ると、お父さんは意固地になってるんだと笑いながら言っていた。
 仕方ないなあと、無言のまま目を落としてしまった焦凍の肩を叩いた。焦凍とお父さんの2人にちゃんと聞こえるように宣言しようと口を開く。

「大丈夫。私と焦凍ならお父さんもオールマイトも超えるヒーローになるよ」
「……期待している」

 お父さんがぼそりと呟く。
 いつものお父さんだったら絶対に言わないような言葉に、思わず焦凍と顔を見合わせた。




 焦凍と一緒に登校をしていると、少し前を歩いている緑谷くんと飯田くんの姿が見えた。

「み――」
「緑谷、飯田。おはよう」

 声をかけようとした私よりも先に、焦凍が2人に声をかけた。
 昔はいつも私の後ろに隠れていたことの多かった焦凍が自分から声をかけにいくなんて。

 前を歩く緑谷くんと飯田くんが焦凍が何かを話している。内容は分からないけど多分昨日の授業のことかも。
 笑みを浮かべながら楽しそうに話をしている焦凍を見て、なぜか涙が出そうになった。


 気付いたらお茶子ちゃんや梅雨ちゃんと食堂でお昼を食べていた。

「赤音ちゃん大丈夫?」
「あ、うん。なんかぼんやりしちゃったみたい」

 ぼーっとしていた私を心配するような顔で見る2人に謝りながら食事を再開する。

「次の授業って――――」
「えぇ――――」
「そうなんよねえ――――」

 お茶子ちゃんと梅雨ちゃんの言葉が途切れ途切れに聞こえる。
 笑顔で話している2人の話題に入れないから少し気まずい。

「赤音ちゃんは?」

 2人に尋ねられても何を話しているのか分からないから、曖昧に笑い返すことしか出来なかった。




 目を開くと、正面に爆豪くんが立っていた。
 あたりを見回すと体操服を着た皆が少し離れたところに座っている。
 そうだ。そういえば今は近接戦闘演習の時間だった。

 戦闘開始を告げるアラームが鳴る。
 その瞬間、爆破の個性で爆豪くんが距離を詰めてきた。振りかぶられた右手を左腕で払い、空いた胸に右クロスカウンターを狙う。左胸を打とうとしたその時、目の前で爆豪くんの空いていた左手を爆破され、咄嗟に顔を覆い後ろに距離を取る。
 すぐさま二撃目が来るだろうと構えるが、爆豪くんが動く様子はない。

「てめえ、俺を虚仮にするつもりかよ。ンだよそれは!」

 爆豪くんが見る私の手には、何故かトンファーのようなものが握られていた。

「さっさと個性使えや!」


 個性って、何を言ってるんだ。私には個性なんてないのに。

 突然両手が激しく熱を持ちはじめる。
 視線を落とすとさっきまで護身具はなくなり、両手が燃えていた。まるで父の個性のように。

「やっと個性使ったかよ」

 爆豪勝己が両手に火花を散らし、好敵手を前にしたかのように不敵に笑う。

 やっと。ようやく皆と同じところに立てたんだと、血が沸き立つような激しい感情が込み上げてくる。
 それに呼応するように、炎がさらに全身を巡るように燃え上がる。

「来いよ塚内。叩き潰してやる!」

 テレビやネットで見た父のように腕を構える。
 あの時、父はどんな顔をしていただろうか。思わず口角が上がりそうになるのを抑えて、爆豪勝己を見据える。

「その言葉、そっくりそのまま返すよ。爆豪!」

 私の言葉が合図となって爆豪勝己が動きだす。
 右腕から炎を放出したと同時に、爆破音とは違う建物が倒壊したかのような激しい音が聞こえた。




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