明日は明日の風がふく | ナノ
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 兄さん達が病室を出て行った後、病室の扉が開く音がした。
 緑谷くんのお母さんが戻ってきたんだろうか。振り向くとそこにはA組の切島と、唖然とした顔の焦凍が立っていた。

「確か普通科の……なんでここにいるんだ?」
「赤音」

 2人の声が重なり、切島が驚いたように焦凍を見る。
 焦凍は隣の切島には目もくれず、眉を寄せながらまっすぐと私に詰め寄った。

「緑谷くんのお見舞いに来たんだけど、まだ意識が戻ってないみたい」
「……わざわざ緑谷のためにここを調べたのか」
「別に緑谷くんじゃなくても友達が重傷だって聞いたら調べて行くよ。焦凍が無事そうでよかった」

 バツが悪そうに焦凍が顔を逸らした。
 軽傷とは聞いていたけど、もうどこにも傷はなさそうで良かった。

「2人とも接点なさそうに見えるけど知り合いだったんだな」

 あまり関心がなさそうな声で切島が呟く。焦凍に名前を呼ばれた時点で私達がどういう関係なのか疑われる可能性があったが、驚きはしたものの彼の興味を引くものではなかったようだ。

「緑谷が目覚ましてないなら先に八百万達のところに行くか」
「あぁ。赤音はもう帰るのか?」
「緑谷くんのお母さんが戻ってきたら、家族と一緒に帰るよ」

 焦凍が一瞬傷ついたような、寂しそうな顔をした。

「……気をつけて帰れよ」

 そう言って焦凍は切島と一緒に病室を出て行った。
 私にとっては塚内家の人は家族でも、焦凍にはただの他人だ。そのことが私と焦凍は住む世界が違うのだと伝えているようだった。




 焦凍達が病室を出て行ってしばらく経った後、緑谷くんのお母さんが戻ってきた。

「どうもありがとう。おかげで少し休めたわ」
「それなら良かったです」

 戻ってきてからの緑谷くんのお母さんの顔色が先ほどよりも良くなったことに安堵する。

「緑谷くんのお母さんが戻ってくる前に、警察が病室に来ました。まだ意識が戻ってないからって他の負傷した人たちのところに行きましたが、もしかしたらまた来るかもしれないです」
「そうだったの、ごめんなさいね。あら、そういえば警察に塚内警部って人が……」
「私の兄です。お互いにここにいるとは思っていなかったので驚きましたが」

 緑谷くんのお母さんが驚いたように目を丸くする。

「塚内警部の妹さんなのね。なんというか、雰囲気があまり似ていなかったから」
「よく言われます。……あの、そろそろ帰ります。連絡もなく突然押しかけてしまってすいませんでした」
「そんな、むしろ嬉しかったのよ。出久にも心配してくれる友達がいるんだって。中学生の頃は友達の話なんてほとんどしなかったのに、高校生になってからは毎日友達の話ばかりでね。出久と友達になってくれてありがとう」

 そう言って頭を下げる緑谷くんのお母さんに思わず戸惑いを覚えた。
 感謝をするのは私の方なのに。緑谷くんがいなければ友達を作ることは出来なかったし、焦凍とも仲違いしたままだった。
 でも、もし緑谷くんに個性があるとあの海浜公園で分かっていたら、私は彼と友達になっていただろうか。無個性の緑谷くんだったから、私は彼のことを知りたいと思ったんじゃないだろうか。

 体育祭前に爆豪勝己が言っていた言葉が頭をよぎる。無個性同士で傷の舐め合い、その通りかもしれない。
 私なら無個性の緑谷くんのことを理解できるし、緑谷くんなら私のことを理解してくれるかもしれないと思っていたからだ。

「いえ……失礼しました」

 あまりにも自分勝手すぎる考えに緑谷くんのお母さんのことが見れず、下を見つめたまま病室を出た。




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