明日は明日の風がふく | ナノ
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 始業式とLHRも終わり、明日からの夏休みをどう過ごすからクラスメイトが話しているのを聞きながら教室を出る。
 ショッピングモールでのことがあって兄さん、というよりは警察から1人で行動は控えるように言われている。通学は電車ではなく父さんに送迎してもらっているから、迎えが来るまで校内で待っていないといけなかった。

「塚内さん」

 声を掛けられて振り向く。教室から足早に心操が出てきた。

「この前借りた手帳、すごい参考になってる。ありがとう」
「そう。役に立ってるなら良かった」
「ほんと、すごいよこれ。特にさ『清掃活動における体力トレーニングの効果について』とか。そういうの考えたこともなかった」

 心操の言葉に曖昧に返事をする。
 私のそれはただの推論であって、それを考えたのも実行したのも私ではないから。

「……。あーあのさ、塚内さんって夏休みも学校来たりする?」

 心操の言葉の意図が分からず首を傾げる。

「実はさっきイレイザーに呼ばれて、夏休み中に本格的にトレーニングをやるって言われたんだ」

 プロに見てもらえるなら私は必要ないんじゃないかと思いながらも、言葉にはせずに頷く。
 夏休みは雄英の図書室とトレーニングルームを利用したいと思っていたけど、あの兄さんの様子だと夏休み中は難しそうだ。

「多分夏休みは学校に行かないと思う。トレーニング頑張ってね」
「あ、そう……ありがとう。あとさ、あの手帳まだ借りててもいい?」
「返すのはいつでもいいよ。それじゃあ」

 首元に当てていた手を下ろした心操に別れを告げて、歩き出す。
 夏休みにトレーニングをするということは、年内には編入の是非を決めることになりそうだ。
 学校のトレーニングルームが無理でも先生の道場なら兄さんも許してくれるだろうと思ったけど、まだ再開する目途は立っていない。体調を崩されていないといいのだが。



 父を待っている間にフリースペースで夏休みの課題をしていると、視界の隅に電光が見えたと思ったら爆煙と共に大きな爆破音が聞こえた。
 何事かと窓の外に目を向ける。少し離れた先にあるグラウンドで体操服を着た生徒達が個性を使っているのが見えた。ぼんやりと見える風貌からして、A組の人達だろう。
 終業式の日まで授業をしているとは。遮蔽物のない環境での対人訓練をしているんだろうか。お茶子ちゃんと梅雨ちゃんには少し分が悪そうだ。

 あの騒動の後にお茶子ちゃん達から大丈夫か心配する連絡がきたものの、何も言えなくて心配させてしまったことを申し訳なく思った。
 焦凍からもクラスメイトの話で私のことを聞いたと連絡があったけど、緑谷くんが私の生まれの秘密を知ったことは言っていない。焦凍から聞いてこないということは、緑谷くんも焦凍には話していないんだろう。
 そういえば、焦凍からも危ないことはするなと言われてしまった。小さい頃も父の訓練で無茶をしようとする私に泣きながら言っていた覚えがある。焦凍にも、悪いことをしてしまった。

 A組の授業風景を眺める。話はよく聞いていたけど授業の様子を見るのは初めてで、実戦も経験しているだけあって個性を使うタイミングだったり、みんな数カ月前までただの中学生だったとは思えない。
 もし個性があってあの場に私がいたらと、馬鹿なことを考えてしまい咄嗟に頭を振る。
 たられば話を考えても無駄なだけだ。それならもっと鍛えて勉強をしないと駄目だ。だって、私にはそれしかできないから。




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