明日は明日の風がふく | ナノ
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 もうすぐ夏休みがはじまる。
 夏休みは毎年恒例の家族旅行以外に大きな予定もなく、今年も基礎トレーニングと来学期の予習をするつもりだ。
 その前に、だいぶくたびれてしまったトレーニングウエアを買い替えないといけないだろう。元々は兄達から誕生日プレゼントにもらったものをずっと使っていたけれど、そろそろもうサイズも合わなくなってきていた。とはいえ、この辺りで取り扱っているところといえば、木椰区のショッピングモールくらいしかない。あそこなら前に姉に勧められたハンドクリームを置いている店もあるかもしれないから、探しにいくのもいいかもしれない。


 このあたりで買い物をするといえば木椰区のショッピングモールと言われるだけあって、いつでもここは人が多い。ハンドクリームを買って店を出ると、ちょうどお昼時ということもあって人の数は更に増えていた。人酔いしそうなほどで、早く目的のものを探して帰ろう。スポーツ用品を売っているところはこことほぼ真逆のようだ。
 フロアマップを見ていると、後ろから声をかけられる。振り向くとそこにいたのは、梅雨ちゃんとそのクラスメイト達だった。

「こんにちは赤音ちゃん。こんなところで会うなんて奇遇ね」
「こんにちは梅雨ちゃん。皆で買い物なんてなにかあったの?」
「ええ。今度行く林間合宿で必要になるものをみんなで買いに来たの」

 林間合宿、そういえばこの間連絡を取っていたときに焦凍が言っていた。焦凍は来ていないだろうけど、お茶子ちゃんがいないのが意外だった。緑谷くんいるとしたら飯田くんと行動しているとしても、お茶子ちゃんは梅雨ちゃんと一緒に買い物をするだろうと思っていたからだ。周囲に目を配るがお茶子ちゃんの姿は見えない。

「お茶子ちゃんは来ていないの?」
「来てるわよ。でもお茶子ちゃんも緑谷ちゃんも2人ともすごく悩んでいたから。声はかけたんだけど、置いてきちゃうなんて悪いことしちゃったかしら」

 そう言った梅雨ちゃんの後ろでA組の生徒である芦戸と葉隠が面白そうにニヤニヤと笑っている。葉隠の姿は見えないが、わさわさと服が動いていた。

「2人で買い物なんて、何も起きないわけがないよねえ?」
「ここからはじまる恋の予感……!」
「美奈ちゃん、透ちゃん、そういうのは感心しないわ」
「ええー、つまんないー」

 梅雨ちゃんの言葉に2人が声を上げる。お茶子ちゃんと緑谷くんは普通の友達同士だと思っていたけれど、私が疎いだけだろうか。梅雨ちゃんもあまり興味があるようには見えないし、芦戸と葉隠の2人がそういう話が好きなだけなのかもしれない。

「そういえば赤音ちゃんは何を買いにきたの?」
「ハンドクリームと、あとトレーニングウエアをね。夏休み前に新しいの買っておこうって思って」
「たしか飯田ちゃん達もトレーニング用の服を見に行こうって言っていたから、もしかしたら会うかもしれないわね」
「そっか、ありがとう梅雨ちゃん。またね」

 梅雨ちゃんと別れ、トレーニングウエアを買いに店へと向かう。
 スポーツ用品を売っているエリアのエントランスには飯田くんの姿は見えなかった。もうどこかの店に入っているのかもしれない。飯田くんも梅雨ちゃんのようにクラスメイトと行動しているだろうし、無理に声をかけたら気を遣わせてしまうだろう。会えたらいい、くらいの気持ちで、目的の店へと向かう。その店は一番上のフロアにあり、吹き抜けになっているため1階のエントランスがよく見えた。
 エスカレーターに乗ってエントランスを眺める。そのエントランス中央のベンチに緑谷くんのような髪型をした人がいるのが見えた。エレベーターを昇り終えて、その人を注視する。やっぱり緑谷くんだ。お茶子ちゃんの姿は近くにないが、隣に立つ人と肩を組んで親し気に話しているように見える。
 くたびれた寝巻のような全身黒の服でフードを被っている男。その姿に以前校内で見かけた不審者の姿が重なり、嫌な予感がした。
 ただの思い過ごしであってほしい、そう思いながらも、いつでも連絡が出来るよう鞄の中に入れていたスマホを手に持ち、駆け足で緑谷くんのもとへ向かった。




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