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 「今回の全国模試で雄英高校の評価がA判定でなかった者は速やかにこのクラスから出ていくように」

 教室へ入って早々に告げられた講師の言葉に騒がしかった教室に沈黙が落ちた。

 担任から勧められた予備校は、雄英を含めた名門校合格を目指したハイレベルな講義が受けられると同時に、どこの予備校よりもスパルタで実力主義であると有名なところだった。
 普通科の特待生枠には筆記試験と面接だけでヒーロー科のような技術試験はない。だからこそ筆記試験をトップで合格し、面接を受ける必要があった。

「全国模試と予備校の独自模試で共にA判定だったのは塚内だけだ。いくら個性が優秀であっても筆記試験を落としては話にならない。……まだこの部屋に残っているということは指名して退室したいのか」

 教室の後ろの席から慌てて教室を出ていく音がいくつか聞こえたけれど、講師は彼らには見向きもせず私に目を向けた。塚内、と呼ばれて背筋を伸ばす。

「今回お前はうちの予備校では唯一のA判定だったが、よその予備校にはまだ上がいる。さらに勉学に励みなさい」
「はい」

 私の返事に頷いた講師はすぐさま、ホワイトボードに数式を書き始めた。


 「個性が優秀であっても」と講師が発言したあたりから背後からいくつかの視線を感じたけれど、その中でもひと際強い視線にため息を吐きそうになるのを堪えてテキストを開く。

 射殺さんばかりに見てくる人物はおそらく爆豪勝己のものだろう。
 彼は普段から不遜で常に他者を見下したような態度をしている。そして一際、無個性に対してあたりの強い人だった。とはいえ、互いに雑談をするような仲でもないから、こういった試験結果について話をされた時くらいしか意識することもないのだけれど。


 講義が終わり、帰り支度をはじめる。時間はすでに夜の9時を過ぎていて、スマホを見ると兄から仕事帰りのついでに家に送るという連絡が来ていたので、予備校の前で待っていると返事を返した。

 兄を待つために外へ出ようと教室の扉に手をかけたとき、反対側から誰かが扉を開けた。

「……チッ」

 模試の話をされたときに爆豪勝己と鉢合わせてしまうなんて。運が悪い。
 普段以上に鋭い目付きで舌打ちをした爆豪勝己を見ないようにして横を通り過ぎようとしたら、爆豪勝己に「おい」と声をかけられた。

「……なに」
「てめェ、1人だけA判だったからって調子のってんじゃねえぞ」
「別に調子乗ってなんてない」
「勉強だけ出来たって雄英には受からねえんだぜ?」
「そう」

 これ以上言い返せば余計に面倒なことになる、というのが今まで見てきた爆豪勝己の印象だ。早く会話切り上げて帰るべきだと判断をして、爆豪勝己の横を通り過ぎる。
 いつもの爆豪勝己なら私に対して舌打ちをしておしまい、のはずだった。

「待てやゴラァ!!」

 爆豪勝己の大声に振り向いたら、突然制服の胸元を捕まれ廊下の壁に背中を打ち付けられた。
 衝撃で肩にかけていた鞄が足元に落ちる。

「何スカした顔してんだよ。無個性の分際で!!てめェもデクも俺のことをバカにしやがって!!」

 怒鳴り散らす爆豪勝己の後ろには、帰宅をしようとしていた生徒達が集まり、騒然としている。
 胸元を掴む腕の力を緩むどころか更に力が込められた。

「何か言ったらどうなんだよアアッ!?」

「おい!何をしてるんだ!!」

 生徒をかき分けてやってきた講師達によって、胸元を掴んでいた爆豪勝己の腕が外される。
 2人の講師に羽交い絞めにされた爆豪勝己が睨んでいるのが見えたけれど、それには目を向けないようにして声をかけてくる講師と向き合う。

「今回の模試のことで言い合いになってしまっただけです。すいませんでした」
「ご家族の方に連絡は……」
「私の言い方にも問題があったので、連絡はしていただかなくて大丈夫です。」

 失礼なことではあるけれど、講師が言い切る前に断った。家族に余計な心配をかけさせたくない。予備校としても大事にしたくはないだろうし。

「そうか。……もう遅い、皆も早く帰宅しなさい」

 床に落ちていた鞄を拾い、講師に向かって軽く会釈をする。爆豪勝己のことは予備校が何とかするだろうから、予備校に後のことは任せてしまおう。
 時計を確認すると、兄に連絡をしてから10分は過ぎていた。もしかしたら兄がもう待っているかもしれないと足早に出入口に向かった。




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