第三関門である地雷原にたどり着いたときには、既に緑谷くんは1位でゴールをしていた。実況ではゴールをしたのは20名を超えたことを伝えるのみで、それ以外の情報はない。前を走る人の数はおよそ20人以上。既に通った人達が避けていった足跡を辿り、走った。
ゴールゲートが見えてきたところで、黒髪の女子生徒まであと10m届かず、ゲートをくぐり抜けた。
『普通科2人目が40位!!残りの生徒もきばっていけよー!!』
順位の変動がなければ自分は40位、目標順位よりも低い。速見とのことがあったとは言え、大幅にタイムロスしてしまったことを悔やんでいると、レース中にはなかった右手首の痛みがぶり返してくるのを感じる。
香山先生に声をかけ、養護教諭の修繕寺先生の待機している保健所へと向かった。
『リカバリーガール出張保健所』とファンシーな看板のかけられた部屋をノックする。
「ミッドナイトから連絡があったよ。そこに座りなさい」
部屋の中にいた修繕寺先生に丸椅子を指さされ、腰をかける。
右腕に巻いたジャージを解くと、先ほどとは比べ物にならないくらい手首の周りが腫れあがっていた。診察のために修繕寺先生に手を掴まれ、痛みに顔を顰める。
「こりゃ、骨折しちまってるね。やったのは同じクラスの子だろ?全く最近の子は限度ってもんを知らないんだから……」
「……見ていたんですね」
「観客に見せないにしても何かあったときのために教員達は見てるもんだよ。アンタのアレも褒められたものじゃないけどね。正当防衛にしちゃ、度が過ぎてる」
アレ、というのは速見の首を絞めたことだろう。修繕寺先生の言葉に何も言い返せず、黙って治療を受ける。
もしあのとき緑谷くんの名前を聞くことがなかったら、速見を窒息させてしまっても構わないと本気で考えていた。あの時、骨折の痛みと速見の言葉にどうしても我慢できず、自制できず我を失っていた。理由が何であれ、自分が何のためにここにいるのかを忘れ、目先のことに囚われてしまった。
もし緑谷くんであったなら、こんなことにはならなかっただろう。
「次はないから気をつけなさいね……ハイ終わりだよ」
「はい、ありがとうございます」
腫れの引いた手首を回してみる。すっかり治癒されているが、治癒される前にはなかった倦怠感を感じる。
「少し体力を削ってリカバリーしたから倦怠感とかあるだろうね。ベッドで休んでいくかい?」
「予選がまだ終わってないので、大丈夫です。ありがとうございます」
「……そうかい。無理するんじゃないよ。もう体力を削ってしまってるから、2度目はリカバリーできないよ」
「はい。失礼しました」
頭を下げて保健所を出る。
廊下のスピーカから全生徒がゴールしたという放送が流れ、駆け足でグラウンドへ戻った。
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