明日は明日の風がふく | ナノ
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 ついに体育祭当日を迎えた。
 雄英の体育祭はかつてのオリンピックの代わりとして、学校のみならず国内のビックイベントとして知られている。今年は敵の襲撃もあったため開催を懸念されていたが、開催することで雄英の危機管理体制が牢固たるものであることをアピールする狙いらしい。
 雄英体育祭は学年ごとにステージが分かれ、予選を勝ち抜いた生徒が本選で競うというシステムだ。全国のプロヒーローが将来の有望なヒーローをスカウトする目的で見るため、主にヒーロー科の将来のための見せ場となることが多かった。

 入場前にC組の控え室として用意された部屋に集合し、クラスメイトの各々が準備運動をしたり友人達と川をしたりするなどしている中、控え室内に取り付けられたスピーカーから入場準備のアナウンスが入る。
 クラスメイトが続々と控え室を出る中、速見だけがずっと椅子に座っていた。

「速見、早く準備しろよ」
「……」

 友人に声をかけられ、速見が立ち上がり控え室を出る。
 クラス委員として控え室の最終確認のためにドア脇に立っていたが、その時に見た速見の目はひどく淀んでいたように見えた。


『ヒーロー科!!1年!!!A組だろおぉぉ!!?』

 A組入場のアナウンスに沸いた観客席の大きな歓声が、スタンド下の通路に響いて聞こえる。例年であれば最終学年である3年生のステージに人が集まるが、今回ばかりは敵の襲撃を耐えたA組に国中の注目が集まっていた。
 C組入場のアナウンスと共に入場する。ヒーロー科ほどの歓声はなかったけれど、スタジアムは入場する選手への拍手に包まれていた。

「俺らって完全に引き立て役だよなぁ」
「たるいよねー…」

 そう話していたのは心操の友人達だ。その言葉に何人かのクラスメイトが同意していたが、心操はその話には入らずヒーロー科の生徒達が並ぶところへ顔を向けていた。
 1学年の全生徒がグラウンドの中央に集められ、主審である香山先生によって開会式が行われる。

「選手代表!!1-A、爆豪勝己!!」

 聞いたことのある名前に思わずヒーロー科のほうへ目を向ける。爆豪勝己の隣に立っていた緑谷くんがとても驚いた表情をしていた。

「え〜〜かっちゃんなの!?」
「あいつ一応入試1位通過だったからな」

 緑谷くんが爆豪勝己のことをあだ名で呼んでいることに驚いた。かっちゃんという爆豪勝己に似つかわしくない名前だと思う。私が思っていた以上に彼らの関係は深いものなのかもしれない。
 ヒーロー科の入試のだと、心操の友人である女子生徒が語気を強めて言った。それが負け惜しみのように聞こえるのは、彼女もヒーロー科を落ちて普通科に来たからだろうか。確かに人格面に問題はあるが、爆豪勝己の実力は確かなものだというのは予備校の時から知っている。おそらく筆記試験だけであったとしても、彼女よりも良い成績を残していただろう。

「せんせー。俺が1位になる」

 気だるげな爆豪勝己の不敵な宣誓に飯田くんや他の生徒からのブーイングが聞こえたが、それに対して爆豪勝己は指で首を切る動作で応えた。そのような態度で良いのだろうかと思ったが、香山先生は注意することもなく、爆豪勝己を見ている。それくらいの気位がなければヒーローは務まらないというのか。
 ふと、視線を感じ振り向く。振り向いた先に立っていたのはお茶子ちゃんで、その隣には焦凍がいた。振り向いた私にお茶子ちゃんが気付く。小さく拳を握って、頑張ろうと口を動かすお茶子ちゃんに、自分も拳を握りしめ、頷いた。

「さーて、それじゃあさっそく第一種目行きましょう」

 香山先生の言葉に、ステージ上のホログラムと共にドラムロールが流れる。

「今年の種目は……コレ!!」

 映し出されたのは【障害物競争】だ。コースはスタジアムの外周約4q。コースさえ守れば何をしたって構わない、ということは生徒間の妨害も可能ということだろう。

 全11クラス、約220人が人数の割に幅の狭いゲート前に集められた。腰のホルダーに差していた組み立て前の棒を取り出し、直列に繋げていく。

「おい、道具の持ち込みなんてアリかよ」
「そいつ無個性の特待生だよ。無個性だから許可されたんじゃねーの?」

 別のクラスの男子生徒の呟きに他の生徒が答える。周囲の視線が集まったが、目を閉じて意識を集中させる。
 予選通過者が上位何名なのかは公表されていない。体育祭の目的の1つであるヒーロー科のスカウトということであれば、予選でヒーロー科の生徒を落とすことはないだろう。ヒーロー科はAB合わせても40名、本選に向けて通過者の個性把握をすることを考えたら目標は35位と言ったところか。

 ゲート上のシグナルが点灯しはじめた音を聞き、顔を上げる。
 きっと両親はテレビの前で見ているのだろう。兄達からは見れないが応援していると今朝連絡がきた。私の家族は無個性の子を養子にしたがために、心無い扱いを受けてきた。この体育祭で、私の家族がしてきたことは無駄なことではなかったと証明してみせる。家族のおかげでここまで来れたんだと、塚内赤音の姿を見てほしい。

 周囲の息を詰める音が聞こえ、右手に持つ棒を握りしめた。
 ゲート上の3個目のシグナルが点灯する。

「スタ――――ト!!」

 第一種目、障害物競争が始まった。




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