80000hit(未完成作品有) | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


3人1組のチームで行われる校外演習時の突然の敵の襲撃。
増強型の個性と思われる敵はローブのようなものを纏っているため、相澤の個性が使えない。単独犯でありながら緑谷・飯田・轟・相澤の個性を知り尽くしたかのような戦い方に、それぞれが妙な違和感を覚えた。

飯田と緑谷の攻撃に怯んだところを、轟の氷結で動きを止められた敵のフードが落ちる。その隙を狙った相澤が個性を封じ、捕縛武器が敵が捕らえた。
俯いて大人しく座っているため、敵の詳しい容姿は分からない。相澤が敵に近づく。

敵が顔をあげる。息を呑んだ4人の反応に敵は笑みを浮かべた。

「やぁ久しぶり」
「……名字」

誰もが言葉を失う中、一番はじめに轟が1年A組の所属であった名字名前の名を呼んだ。
怪力の個性でA組の中でもトップクラスの身体能力を持ちながら、緑谷と並んでヒーローオタクと称されるほどにヒーローに対して憧憬の念を抱いていた名前。

雄英ヒーロー科を合格したことを何よりも誇りにしていた名前だったが、夏休みを境に突然、学校を辞めた。

「やっぱ個性だけじゃ分が悪いか。つか先生個性使ってないのに、全然身動きとれないや。この布めっちゃ固いなぁ」
「……何で、名字さんが敵なんかに」

緑谷の小さな呟きに身動きを止めた名前は笑みを深める。
それはまるで言わなくても分かっているだろう?とでも言うような笑みで、そんな名前を見た飯田が名前に近づく。

「ッ君の兄が敵になったからと言って、名字くんまでも敵になることはなかっただろう!」

飯田が悲痛な顔をして叫んだ。

1学年の前期。ヒーロー殺しステインが逮捕され、その当時アップされたヒーロー殺しの最期の動画にあてられた者達による暴動が多発した。
そして、その中には名前の兄がいた。ステインの思想に則り、名前の兄は殺人を犯した。
その事件は実名で報道され、妹である名前の元には連日マスコミが押し寄せたため、雄英の生徒も知るところとなった。

「……君がそれを言うの?私を疑ってた君たちが?」

笑みを消し、飯田を射抜くように鋭く睨む名前。
元級友の見たことも無い表情に思わず飯田は声を失った。

「どうせ私もいつか敵になるだろう、って思ってたんでしょ。じゃなかったら身内に敵がいる学生はヒーロー科にふさわしくない、なんて退学にしないですもんね?先生?」
「……お前ら、元クラスメイトとはいえコイツはもう敵だ。気を抜くな」

名前の言葉には答えず、相澤は動揺を見せる生徒達に声をかけた。

「アハハハハ!!そうだよ、今の私は敵だ!」

突然狂ったように笑い出した名前に、4人が構え直す。
しかし、それを気にすることもなく名前は笑いながら言葉を続けた。

「兄さんが敵になったおかげでマスコミに晒されて、その上雄英も退学になった!世間からは非難轟々、もう真っ当な生活なんて送れない!ヒーローになりたくてもなれないんだから、やってらんないね!」

ヒーローになりたくてもなれない。そう笑い声を上げた名前であったが、4人には無理に笑っているようにしか聞こえなかった。

――もしかしたら名字さんはまだヒーローに……
緑谷が口を開こうとした瞬間、どこからか聞こえた銃声と共に相澤が小さくうめき声を漏らした。
捕縛武器を掴んでいた相澤の前腕部分のコスチュームが赤黒く染まっていく。

「相澤先生!!」
「ハハハ、気を抜くなって言われたばっかで、しょっ!」

相澤の視線が逸れたと同時に個性によって力尽くで拘束を解いた名前。
舌打ちをした轟が氷結を走らせようとしたが、轟の右足ギリギリを銃弾が飛ぶ。それは名前が隠し持っていた拳銃から撃たれたものだった。

「さすがにチートと言えども轟くんも生身の人間だからね。変な動きしたら今度は頭を狙うよ」
「……お前の目的は俺達への復讐なのか?」
「半分正解。今回は君らに挨拶しにきただけ。他の元クラスメイト達にも伝えておいて欲しいな。知ったときの彼らの表情が見れないのが残念だよ」

そう言った名前の背後に黒い靄が現れた。
拳銃は向けたまま、名前が靄の中に足を入れる。

「っ名字さん!」

自身を呼ぶ緑谷の声に、名前の動きが止まる。

「名字さんはまだ、ヒーローに――」
「何度も言わせないで。今の私は、敵だ」

緑谷の言葉を遮るように言葉を重ねた名前。
笑みを消したその顔は何かを堪えているかのように眉を寄せていた。

「名字さん……」

こんなに話が合う人は初めてだ、と満面の笑みを浮かべていた名前の姿が緑谷の脳裏をよぎる。
もう緑谷に名前を呼ばれても名前は動きを止めることはなかった。
黒い靄の向こうに名前の姿が吸い込まれるように消えていったと同時に、ワープゲートは閉じられた。

ヒーローを志しながら、同級生すら救けられなかった。
緑谷・飯田・轟の3人はその場に立ち尽くすことしかできなかった。


back