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「もう兄さん、どこに行ってるのかしら」
「パパはー?」
「パパはお仕事なの。一緒に来れたら良かったのにねー。でも今日はひーくんと一緒に遊ぼうねー」
「ねー」

顔を見合わせると娘のカノンがニコニコと繋いでいる手を握った。
双子の兄さんの紹介で消太さんと知り合ったのが高校生の時。私から猛アタックをして晴れて恋人になり、結婚をしたのが4年前。そして、消太さんとの間に娘のカノンを授かったのが2年前。今では娘のカノンも大きくなり、色々な発見の連続の日々だ。
今日は消太さんとカノンと3人で公園に出かける予定だったけど、消太さんに急に仕事が入ってしまいおでかけは延期に。最近強盗事件が相次いでいることが原因らしい。それでもどうしてもパパと出かけたいと愚図るカノンにどうしようかと困り果てていたら、ちょうど休みだという兄さんが一緒に行ってくれることになった。両親同様、姪を目に入れても痛くないと言わんばかりに可愛がっている兄さんにカノンも懐いていて、笑顔になったカノンを見た消太さんが兄を小突いていたのを見て少し笑ってしまった。
そんなこんなで、用事を終えてから行くから公園で待ち合わせということになったけど、その兄が来ない。兄さんもそれなりに人気のあるヒーローだからか、どこかで捕まっているのかもしれない。

 カノンと2人で兄さんを待っていると、携帯にメッセージが届いたことを知らせる通知音が鳴った。兄さんからと思ったら、子ども用品の通販の振り込み期限が迫っているというものだった。すっかり忘れていた。近くにコンビニがある。兄さんはまだ来なさそうだから、今のうちに行ってしまおう。

「カノン、これからお母さん行きたいところがあるんだけどいい?」
「うん!」
「ありがとう。それじゃあいこっか」

 公園をすこし歩いたところにあるコンビニへカノンと向かう。兄さんからの連絡は相変わらずない。もしかして、約束していたことを忘れているのだろうか。今のところ、カノンは愚図ったりすることなく機嫌よさげに歌を歌っている。私の家系は音に関係した個性を持っているから、例にもれずカノンも歌だったり音楽だったり、そういうものが好きだ。でもまだ個性の発現はしていない。まだ2歳だから良いけれど、カノンは一体どんな個性が発現するんだろうか。今から楽しみだ。
 平日の昼間だから、コンビニには私達の他に店員と2人組の客しかいなかった。お菓子売り場に歩いていこうとするカノンを抱っこして、ATMに向かう。

「おかし―!」
「これが終わったら見に行こうね」
「やー!」

「オイ!!!」

 イヤイヤと首を横に振り、愚図り始めたカノン。早く終わらせてしまおうとATMを操作したとき、店内に怒声が響いた。

「そのレジの中の金をここに入れろ!」
「あのレジもだ!!」

  2人組の客だと思っていた男達が、店員に刃物のような爪を突き付けている。まさか自分がコンビニ強盗の場面に出くわすなんて。あの2人組は私とカノンの存在に気付いているけれど、私が通報してヒーローが駆けつけるよりも先に金銭を奪って逃走するつもりだ。人相が分からないようにサングラスとマスクをしている。咄嗟に消太さんから渡されていた腕時計の非常用ボタンを押す。オフの兄さんはともかく、仕事中の消太さんなら他のヒーロー達と連携してすぐに対応してくれるはずだ。
 それよりも、カノンだ。2人組の声に驚いて動きを止めていたが、既に目には涙が浮かんでいる。あの2人組を刺激して、カノンに危害が加わったらと思うと、泣きださないように必死にあやすしかない。

「ちんたらしてんじゃねえぞオイ!!」
「ぶっ殺すぞ!!」

 怒声と銃器をカウンターへ叩きつけた音に驚いたカノンが大声を上げて泣き始めた。2人組の視線からカノンを隠すように抱きしめる。

「オイ!!!そのガキを黙らせろ!!」

男の声に更にカノンの泣き声は大きくなる。子ども特有の甲高い泣き声が店内に響き渡り、比例して2人組の苛立ちも増していく。2人組の1人が近づいてきた時、パトカーと共に消太さんが到着した。
こんなに早くヒーローと警察が来るなんて、と予想外の状況に2人組が慌てだす。

「もう逃げ場はない。その銃を下ろして、大人しくしろ」

 消太さんが近づいたその時、近くに立っていた2人組の1人がカノンに手を伸ばした。人質にするつもりだ、と咄嗟にその手を振り払う。

「カノンに触らないで!!」
「ッ!このやろう!!」

 カノンを抱きかかえて敵に背中を向けた瞬間、後頭部に強い衝撃を受けたと思ったら目の奥がチカチカとした。多分殴られたんだろう。ぐわんぐわんと頭が揺れるが不思議と痛みは感じない。
 次の瞬間、視界が暗転した。




「カノン!」

 抱きしめていたはずのカノンの暖かさを感じられず、敵に奪われたのだと思わず娘の名前を叫ぶ。
 ぼんやりとする視界がはっきりしてきた。目の前には消太さんがいて、彼の体に縋り付く。

「消太さん!カノン、カノンは!?」
「落ち着け。カノンは今個性検査を受けてる」
「個性検査、って……」

 ふと辺りを見渡すと、そこはコンビニではなくて、病院のようだった。
 状況が読めない。どういうことなのかと消太さんを見つめる。
 何から説明しようか、と言わんばかりに消太さんが大きく息を吐きながら髪を掻いた。

「お前が気を失って、カノンの個性が発現した。てっきり山田や名前みたいな個性だと思ったんだが、敵の個性が消えたんだ。俺の抹消みたいにな」

 だから私を病院に搬送するのと一緒にカノンの個性検査もしているらしい。
 消太さんから話をなんとか飲み込む。しかもカノンが私と離れたくないがために個性を使い出して、消太さんの個性も消されてしまうため、敵逮捕よりも手間取ったらしい。

「誰も手が付けられなくなって、後からやってきた山田がカノンをなだめていたよ」

 その話を聞いてよく私もそんな中で気を失い続けていたなって思ったけど、考えてみれば私と兄さんは音に対しての耐性は人よりもあるからそれのおかげなのかも。

「とにかく、まだ痛むところはないか?大事にならなくて良かった」

 私の手に手を重ねる消太さん。心配そうな顔をする消太さんを安心させるようににっこりと笑う。

「大丈夫!母は強しって言うでしょ?それよりも、早くカノンを迎えに行ってあげないとね」
「あぁ」

 私の言葉に消太さんが笑みをこぼす。
 きっとまだ娘は泣いているに違いない。早くカノンのことも安心させてあげないと。
 心配そうに体を支える消太さんをよそに、足早にカノンのもとへと向かう。


 さて、不安で泣いているだろうと思ったカノンだったけれど、兄さんとご機嫌な顔で歌を歌っていた。
 そしてこれがきっかけなのかそれとも個性が発現した影響なのか、カノンは今まで以上に兄さんに懐きだして。
 毎日のように「ひーくんは?」と聞いてくるカノンに消太さんが何を思ったのか、それは想像に難くないでしょう。


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